でも実際助かるんだよなあ
そして、翌日。「ちゃんと今夜も帰ってくるんですよ」とアリアに言われたキコリは、何とも微妙な表情で道を歩いていた。
「いいのかなあ……あまり良くない気がするんだけどな。でも実際助かるんだよなあ」
一晩1000イエンの宿にはもう泥棒が怖くて泊まれない。
とはいえ、一晩3000イエンの宿の出費はやはり大きい。
それを節約できるのは物凄く良いことなのだが……アリアの外聞的にも良くないし、何よりも。
「ご飯が美味しくてお風呂に入れて夜も安心して眠れる……そんな生活に慣れて、大丈夫なのか俺……?」
せめてアリアに何かお返しできるようにならないと、人間としてダメになる。
そんな確信じみた思いを抱きながらも、キコリは英雄門へと向かう。
装備は大分揃ってきた。大きい魔石が儲かる事も分かった。
ならキコリも、今後の事を考えて動かなければならない。
とはいえ……急激に強くなったわけでもないのだが。
「お、少年。順調みたいだな」
「はい、行ってきます」
英雄門の衛兵にそう挨拶して、キコリは森を進んでいく。
ゴブリンは……今のところ、姿が見えない。
ガサリ、と足元で草が揺れる音に反応し、キコリは身体を僅かにずらす。
一瞬後、キコリの眼前を跳んでいく角兎に……キコリは、狙い過たず斧を叩きつける。
「……慣れてみると、攻撃が単純なんだよな」
勢いが強すぎるから、一度跳ぶと軌道をもう変更できない。
だからこそ、慣れれば非常に倒しやすく。
だからこそ、油断して角兎に殺される者が後を絶たないのだという。
角兎の魔石を回収しようと身をかがめたキコリは、それに気付き頭を下げる。
頭上を通り過ぎ木に刺さるのは、一本の矢。
キコリはそれを見る事もなく立ち上がり、矢の飛んできた方へと走る。
「ギ……!」
「弓の音が聞こえてんだよ!」
オロオロと逃げようとするゴブリンの頭を、キコリは思いきり叩き割る。
その隙を狙おうと突き出されたもう1体のゴブリンのナイフは、しかし刺さる直前にゴブリンの顔面に丸盾が叩きつけられることで地面に転がっていく。
「ギ、ガ……!」
「死ね」
ガン、と。キコリの斧が振り下ろされゴブリンは絶命する。
ナイフを回収すると、キコリは荷物になることも承知の上で弓矢も拾い、魔石を回収していく。
角兎の肉も回収しようと、そんな事を考えて……しかし、キコリはその時点で気付いてしまう。
「そういえば、こういうのって血抜きとかって工程が必要なんじゃ……」
そんなもの、前世も含めて単語しか知らない。
溜息をつくと、キコリは別のモンスターを探して先へと進んでいく。
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