装備を過信するなよ

 クロースアーマーの上から部分鎧を着けていくと、不思議な安心感が生まれるのが分かる。

 今まで防御していなかった部分を防御しているというのがそういった気持ちに繋がっているのだろう。

 動きをあまり抑制しないのもキコリにとって好印象だった。


「あとは……これなんかどうだ?」


 続けてミルグが差し出してきたのは、兜の額当てに革のベルトをつけたような、そんな代物だった。

 出来の悪い兜のようなソレに、キコリは思わず疑問符を浮かべてしまう。


「なんですか、これ?」

「額当てだな。バイザーヘルムって呼ばれてもいるが。ま、必要に迫られて出来た防具だな」


 基本的に兜は戦う者を守る代わりに感覚を制限する防具だ。

 それ故に守る戦いをする者以外はあまり好まないという歴史があった。

 しかし突然の矢による攻撃など、いざという時に頭部を守る防具の必要性は常に言われてもいた。

 鉄で補強したバンダナや戦闘用に調整されたサークレットなど、様々なものが生まれては消えていき……このバイザーヘルムもそうしたものの1つであった。


「可能な限り感覚を阻害せず、額も守れる。ま、そんな防具だ」

「兜って額ではなく頭を守るものでは……?」

「頭を守らなきゃいけねえ時点で詰んでるよ。それでもこいつなら、不意の一撃を防げることもある」

「……」


 キコリが思い出すのは、ゴブリンの矢のことだ。

 あれが頭にでも命中していれば、文字通りに死んでいた。

 そうしたものを防げる可能性があるのなら、買う価値は充分にあると思えるが……。


「ちなみに、お値段は」

「3000イエンだ」

「……か、買います」

「まあ、こういうのはその時が来ねえと有難みが分からんからな」


 3000イエンを払ってバイザーヘルムを受け取ると、キコリはしっかりとバイザーヘルムを着ける。

 額……というよりも前頭部を守るバイザーヘルムは視界を阻害することもなく、着け心地としても悪くはない。


「うんうん、一端の冒険者らしく見えるぜ」

「そ、そうですか?」

「ああ。とはいえ、装備を過信するなよ。そんなもん着けてたって死ぬときは死ぬ」

「はい、分かってます」

「ならいいんだがな。ま、この調子でお得意さんになってくれ」


 そんな声に見送られながら、キコリはミルグ武具店を出る。

 日はそろそろ落ち始め、夕方に近くなってきている。

 此処から更に冒険に出るというのは、少しばかり無謀だろう。


「……ほんと、どうしようかな」


 財布の中身はまだあるから、宿には泊まれる。

 しかし、今の装備を着けたまま1000イエンの宿に泊まる勇気はない。

 3000イエンの価格帯の宿は空いているか分からない。

 何より、アリアにああ言われて好意を踏みにじるのはどうなのか。

 考えて……キコリは、アリアの家へと足を向けるのだった。

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