何かが始まろうとしている
だとすると、アサトは「何」に負けたというのだろうかとキコリは思う。
そもそもの話、アサトが何者かに殺されているなどという状況は想定すらしていなかった。
とはいえ、アサトは死んでいる。それが誰の手によるものかは分からないが、恐らくは犯人もこの古代都市にいるのだろう。
「……直接やり合ったことはないけど、アサトは強かったはずだ。それをこんな……」
「まあ、その辺はどうでもいいわよ。問題はこいつを殺した奴が魔法を使うってことよ。あのエアーマインを見る限り、こいつもそれなりの魔法の実力があったはず。剣を使えて魔法の実力があって、それでも此処までボコボコに負けた」
「相当以上に強力な魔法士か、アサトの上位互換の可能性がある……か」
「そういうことよ」
どちらにせよ、ただ者ではない。話し合いで解決できればいいが、そうはいかないかもしれない。
だが、そうであれば……戦うだけの話だ。今までやってきたことと、何も変わらない。
「よし、この城を探そう。きっと何か手がかりが見つかるはずだ」
「ええ、そうね」
言いながらキコリとオルフェは周囲を見回す。どうやら此処は謁見の間とでも呼ぶべき場所であるようで、最奥には豪奢な玉座がある。例によってキラキラと光っている玉座だが、そこには誰も座っていない。
他には何もないが……此処から別の場所へと繋がっていると思われる扉も幾つかある。
玉座から少し離れた場所の小さな扉。そして恐らくは謁見する側の者が通ってくるためのものだと思われる、大きな扉。そしてキコリたちが入ってきた、バルコニーへと続く扉。
どちらが正解かなど分かるはずもないが、キコリは「あっちにしよう」と小さい扉を選び向かう。
そうすると、そこにあったのは階段で……試しに上に登っていくと、どうやらそこは寝室であるようだった。
置かれた広くて大きなベッド。念のため確かめてみると、やはりこのベッドも固定されている。
しかし、誰かが実は隠れていた……ということもなさそうだ。
「……ハズレか?」
「見たまんまでしょ」
「だよな」
また階段を降りていこうと考えたそのとき。ズズン……と音を立てて城が大きく振動する。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「違うわ! 魔力の動きが活発になってる……まさか此処、まだ何かの機能があったの!?」
流石のオルフェも全体を見なければ「それが何であるか」など分かるはずもない。
ズズン、と。再び大きく揺れて、何かが始まろうとしていることをキコリもオルフェも嫌でも理解する。
駆け寄った寝室の窓から2人は、見た。バラバラと都市に落ちてきては結界に阻まれ消えていく、無数の岩や砂。
そして……天へ向けて発射された、あまりにも巨大な光線を。
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