ただの古代都市じゃない

「うおっ」

「きゃっ」


 響くのは、凄まじいまでの破壊音。それが天井を……もっと言えば、黒鉄山脈を貫くものであるのは、言うまでもない。

 もしかするとそこに坑道があったかもしれないし、もしかすると人が居たかもしれない。

 しかし、光線は無慈悲なまでに黒鉄山脈に大穴を開けて。先程とは比べ物にならない大きさの地響きが、城を揺らす。

 いや、違う。揺れているのは城だけではない。この古代都市そのものが揺れているのだ。

 何故? 何故揺れているのか。その答えは、窓から見える光景が全てを語っていた。


「こ、これは……!」

「上昇して……浮いてる!? まさか、空飛ぶ都市だっていうの!?」


 高度が上がっている。それは周囲を見れば一目瞭然で「飛んでいる」と判断するには充分すぎた。

 そうだとすると、ほとんどの謎が解けていく。固定されていた家具、そのシンプル過ぎる内装。

 そして……古代都市全体を循環する、自己完結型の巨大な魔力製造施設。

 その全てが「飛ぶために必要な機能」であったとするならば。


「ただの古代都市じゃない……空中都市だったってことか!」

「ていうか冗談じゃないわよこんなの! 動かした奴を探すわよ!」

「ああ!」


 もはや一片の疑いもない。間違いなくアサトを殺した何者かは此処に居る。

 そうして2人は部屋を出て階段を駆け下り、そして……謁見の間の玉座に「何か」がいることに気付く。

 それは先程まではいなかったはずの誰か。そして、こうして目にしていても存在感を全く感じない何者かであった。


「……誰だ?」


 一見すると、ドワーフに見える。しかし、着ている服はまるで王か貴族でもあるかのように豪奢な赤と金を基調にした服。その頭には冠まで載っている。手にあるのは……王笏、だろうか?

 如何にも全身で王だと主張しているかのようなその男は、好々爺のような笑みを浮かべ微笑む。


「はっはっは。誰だ、とは中々に面白い挨拶だ。このアダン王国において玉座に座る権利を持つ者は、余の他に無し。なれば余が誰であるかなど自然に分かりそうなものではあるが……まあ、許そう。寛容もまた王が持つべき義務である」


 そう言うと、男は玉座から立ち上がらぬままにその名を名乗る。


「余はアダン王国の国王にして黒鉄山脈の主……すなわち、ドルヴァン七世である」

「この国の王様か……!」

「そんなのがこんなところで何してんのよ」

「くっくっくっ、この身が誰であるかを明かしても礼をせんか。そこに転がっているのと同じことをする」

「アサトを殺したのはアンタ……いや、貴方か!」

「然り。コレは余のものだ。故に不敬者を誅した。当然のことであるな」

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