アイツをブッ殺すわよ

 そう、魔石は魔力の凝縮体だ。

 それ故に人間社会においてもマジックアイテムの材料、あるいは燃料に使われたりもする。

 魔法士の魔法の補助にも使われたりと、基本的には「魔力」として使われる。

 だが当然だが食べるようなものでは断じてない。

 外部から体内に魔力を吸収する事の有害性は広く知られているし、特に魔石……モンスターの魔力を体内に取り込みたいと思う人間がいるはずもない。

 そして妖精……というかモンスターだって、魔石を好んで食べる者などいるはずもない。

 触感的には石そのものであり、見るだけで有害と察するようなものなのだ。そういう趣味でもなければ口に含んだところで、すぐに吐きだすだろう。

 しかし、そうだとすると。

 その上で、ネズミが魔石を吐きださないような事があるとすれば。


「仮に、あのゴブリンがネズミに魔石を食わせた結果、あのモンスターになったんだとしてよ?」

「ああ」

「アイツはゴブリンからも魔石を奪ってるかもしれない。なら……その目的は」

「自分で食べる。ネズミに魔石を食べさせたのは、その実験……か?」

「そうなるわよね」


 とんでもないことだ、とキコリは思う。

 つまるところ、あの転生ゴブリンは更なる力を得ようとしているのだ。

 ゴブリンの魔石を奪ったのは、自分にゴブリンの魔石が合う……あるいは悪影響が少ないと考えたからだろう。

 角兎の魔石を奪ったのは実験の為、そして角兎の持つ能力をどういった形で得られるか試したのだ。

 結果を転生ゴブリンがどう判断したのかは分からないが……転生ゴブリンは、魔石を食べる事で自分を進化させようとしている。そう考えるしかない。

 そしてゴブリンの魔石を奪った以上は、もうホブゴブリンになっていたりするかもしれない。

 いや、あるいはビッグゴブリンだろうか?

 何処まで強くなるのかは分からないが……懸念通り、放置すればするほど手に負えなくなると確定したとみていいだろう。

 しかし、しかしだ。何をやろうとしているかは……恐らく分かった。

 何故そんなに急いで強くなろうとしているのかは分からないが、あるいは向こうもキコリが殺しに来ると警戒しているのかもしれない。

 ならば……やるべきことは、ただ1つだ。


「……近くにいるのは確定だ。行こう、オルフェ」

「ええ、そうね」


 オルフェは思う。

 確かにあの転生ゴブリンは殺すべきだと。

 魔石を食べるという発想が、まずヤバい。本能が警告するはずのソレをやろうと思い立ち、実験までするという思考がすでに常識から外れている。

 その過程で同族殺しをやらかす奴は、もう何をやってもおかしくない。

 そんな危険な奴はすでにモンスター側の視点から見ても駆除対象だ。

 

「アイツをブッ殺すわよ、キコリ」


 だから、殺す。

 オルフェはそう決めて……いつでも最大威力で魔法を放てるように、集中し始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る