防衛都市イルヘイル
「此処がイルヘイル、か」
「ふーん」
立派な鎧を纏う少年はその巨大な都市を見て、驚きと共に呟いた。
無数の家、永遠に続くかのような大きな壁。
防衛都市と呼ばれる巨大な都市の姿は、少年……キコリに僅かな感動をもたらしていた。
まあ、ニールゲンを初めて見た時の感動とは違い「ようやく着いた」といった類のものだが。
キコリの近くを飛んでいる妖精のオルフェは、然程感動もないようだが。
獣王国サーベインの防衛都市イルヘイル。
ニールゲンとは違い獣人がそのほとんどを占める防衛都市は当然、衛兵も獣人だ。
「そこの普人、止まれ!」
防衛都市イルヘイルの巨大な門の前で、キコリは衛兵に止められる。
「その妖精はなんだ! モンスターを防衛都市に持ち込む気か!」
「はあ?」
槍を向けてくる衛兵たちにオルフェが早速凄むが、キコリがそれを押しとどめる。
「この妖精は仲間です」
「仲間だと? 普人、お前モンスターと内通したのか?」
「俺は防衛都市ニールゲンのセイムズ防衛伯閣下の命令で来ました。イルヘイル防衛伯閣下宛の紹介状とセイムズ家の家紋のペンダントもお預かりしています」
使える手札をいきなり切った形になるが、争いごとになりかけた以上は仕方がない。
まさか衛兵と戦う訳にもいかない……オルフェは今にも戦いそうだが。
そして事実、セイムズ防衛伯の紹介状と家紋のペンダントという物証は効いたようで、衛兵たちは顔を見合わせる。
「……その妖精は何だ」
「仲間です。セイムズ防衛伯閣下もご存じのことです」
「そうか。では紹介状を防衛伯閣下にお届けする。渡してもらおうか」
そうしてしばらく待たされていると、他の旅人や馬車などがやってきてはキコリとオルフェを見ていくのが分かる。
その視線は……お世辞にも、好意的なものではない。
「嫌な町ね、此処」
「うーん……クーンからするとニールゲンも似たような感じだったみたいだしなあ」
「誰よ、クーンって」
「猫獣人。前にパーティ組んでた」
「女?」
「男」
「ふーん」
そんなことを話していると……衛兵の1人がやってくる。
「確認が取れた。通って良し」
「ちょっと。待たせてソレ?」
「防衛都市は最終防衛線だ。如何なる事情があろうと警戒を緩める理由にはならない」
「ありがとうございます。では通ります」
「ああ。あまり騒ぎは起こさないように」
オルフェを押さえながらキコリは通るが、オルフェは不機嫌マックスといった感じだ。
「むーかーつーくー!」
「落ち着いてくれよ。初めてオルフェを連れ帰った時の反応……覚えてるだろ?」
「覚えてるけど、それより此処の防衛伯とかいう奴よ。あっちのオッサンと比べて失礼過ぎじゃない?」
「はは……」
まあ、確かに国や種族が違えど同じ防衛伯の紹介状を持ってきた人物に対する扱いではないような気もするが……防衛伯という立場がそうそうフットワークの軽いものではないだろうことも想像できるだけに、キコリとしては何とも言えない。
「ま、とりあえずは此処の冒険者ギルドに行こう。色々手続きもあるしな」
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