本当に獣人の国なんだって感じだわ

「なんていうか……店も結構違うな」

「そうね。本当に獣人の国なんだって感じだわ」


 そう、売っているものも含めて完全に獣人向けなのだ。

 耳や角の防護まで考えた兜や身体的特徴に合わせた鎧。

 それと……露店で野菜を売っている割合が非常に大きい。

 買っているのは山羊獣人や牛獣人などのようだが……別の山羊獣人は肉串を齧っていたので、単純に好みの問題なのだろうか。


「全体的にモフモフだな……」

「そうじゃないのもいるでしょ」

「まあな」


 そんな事を言いながら2人は町中を行くが……2人が見るよりも周囲の方がキコリたちを見ていた。


「妖精……」

「普人と妖精?」

「衛兵は何をしてるんだ?」


 何やら不穏な台詞ばかりが聞こえてくるが……言っているだけなら平和だ。

 キコリ達の前を塞ぐように3人の獣人の男が立ち塞がる。

 それぞれ牛、羊、犬の獣人のようだ。武装しているところからして、冒険者だろうか?


「おい待て普人」

「妖精なんか連れ込んでどういうつもりだ?」

「はあ?」


 オルフェが早速ケンカを買いそうになるが、キコリがそれを押しとどめる。


「俺の仲間だ。此処の防衛伯閣下からも許可を得てる」

「嘘つくんじゃねえよ」

「今すぐ衛兵に突き出してやる」


 キコリを掴もうと伸ばしてくる腕を弾き、キコリはセイムズ防衛伯のペンダントを取り出す。


「これは防衛都市ニールゲンのセイムズ防衛伯閣下の家紋だ。俺はその方から要請を受けて2人で此処に居る。その意味が分かってるのか?」


 これはキコリが平和的に出来る最大限の脅しだ。

 これが通用しないとはあまり思いたくないが……。


「!?」


 牛の獣人がガントレットをつけた拳を振りかぶり、キコリは腕で防御する。

 ガヅンッと激しい音が響き、キコリは吹っ飛ばされながら後ずさる。


「煮込みだかセイロ蒸しだかなんだか知らねえがよお。普人の国での権力が此処で通じると思ってんのか?」

「全くだぜ。とりあえずボコっておこうぜ」

「だな。こういうのは最初にシメといたほうがいい」

 

 3人の獣人が拳を握るのに合わせ、周囲の店から歓声が上がる。


「うおー! やっちまえ!」

「普人の国の権力振りかざしやがってよォ!」

「獣人の力を見せたれ!」


 あまりにもアウェイな状況に、キコリは思わず一筋の汗が流れるのを感じていた。


(マジか……殴った方が正解だったのか!? いや、これはどの道……)

「バカしかいねーわね、此処。あたしからしてみりゃ、どっちも人間だってえのに」


 キコリは違うけど、とオルフェは小さく付け加えるが……キコリの救いにはならない。


「で、どうする? このアホ共、燃やす?」

「……いや」


 キコリは溜息をつくと、拳を握る。


「向こうも武器は持ってないんだ。なら拳でやるさ」

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