気付かなくてもいい事実

 そんなヴォルカニオンの考えを知らないままに、キコリは「ありがとう」と素直に礼を言う。


「ヴォルカニオンに無事を祈ってもらえたら、なんか上手くいく気がするよ」

「そうか、それは気のせいだ」

「キツいな……」


 言いながらもキコリは笑い、ヴォルカニオンの「先」へと視線を向ける。


「ところで此処、通り抜けてもいいか?」

「構わん。貴様と……ついでにその妖精であればな」

「ああ、ありがとう」


 そうしてキコリが歩き出し、オルフェがその背中にピッタリとくっついて。

 ヴォルカニオンの横を静かに通り抜けていこうとするその最中、ヴォルカニオンはオルフェに声をかける。


「そこの妖精」

「な、何よ!?」

「貴様が支えろ。おそらくは、それしかあるまい」

「……言われるまでもないわ」

「そうか」


 ヴォルカニオンに脅えながらもそうしっかりと返すオルフェに、ヴォルカニオンはニイッと太い笑みを浮かべる。それは大抵の生き物には「獰猛な笑み」に見えるだろうが、ヴォルカニオンにしてみれば本気で笑っていた。

 それは「誰がキコリをここまで『もたせて』いたのか」を理解したからだ。

 名前は知らないし聞いても覚える気はあまりないが、キコリを支えようという気概がある。

 おそらくはあの妖精が存在する限りキコリはまあ大丈夫ではあるかもしれないと、そう思えてくる。ならば、次もまた何処かでキコリに会うこともあるだろう。ヴォルカニオンの予想も覆されるかもしれない。

 それは……非常に良いことだ。だからこそ、2人の旅の無事を祈りながらヴォルカニオンはキコリたちを見送って。

 そんなヴォルカニオンの視線を感じながら、オルフェは背筋が寒くなるような思いだった。


「うう、なんかずっと見られてる……」

「見送ってくれてるんだろ」

「そうなのかもしれないけどさあ……」


 オルフェとしてはドラゴンの視線などというものは慣れるものではない。

 キコリは元から問題ないし……アイアースはまあ慣れたが、それ以外は全く慣れない。

 いや、ユグトレイルの視線は信じられないほどに好意的だったのでそちらも例外になるかもしれないが。

 ともかく、ドラゴンの視線などというものは慣れるようなものではない。


「さっさと此処抜けましょ。生きた心地がしないもの」

「此処ほど安全な場所もないぞ? 何か来てもヴォルカニオンが焼くし」

「それはそうかもしれな……」


 言いかけて、オルフェは思い出す。

 そういえば「デモン」は大地の記憶から生み出されるはず。

 何もかもを焼くヴォルカニオンの居るこの場所に、デモンが出ないはずがない。

 それなのに、何も出ないということは……もしかして。


(アイツ、デモンが出たら片っ端から焼いてるってこと……?)


 気付かなくてもいい事実に気付いてしまった。そんな表情で、オルフェはキコリを急かすのだった。

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