とびっきりの壊れ方

 ヴォルカニオンの物言いに凄く懐かしくなるキコリだが……ふと気付き、隣……から消えてキコリの背に隠れているオルフェに声をかける。


「どうしたんだ?」

「どうしたも何も……怖いもんは怖いのよ」

「そうか? そうか。なら仕方ないな」


 前に会ったときもそうだったな、と思い出しながらキコリはヴォルカニオンに向き直る。

 そう、前に会ったときとヴォルカニオンは何も変わらない。

 それはキコリに懐かしい気持ちと、一種の安心感を与えてくれる。


「それはそうと、さっきも言ったけどモンスターの町があるんだ。此処に来るかもしれないから」

「燃やす。貴様の頼みとて変わらぬぞ」

「せめて一言警告とか」

「警告ならば、我が此処にいることこそが警告と言えよう。我が姿を見て引き返さず前に進むというのであれば、それは燃やすに足る理由だ」

「む、それはそう……かもしれないな」


 つまりヴォルカニオンを見てすぐ引き返すのであれば燃やさないということだ。

 確かにドラゴンの姿を見てなお近づこうと思うのは、相当に命知らずだ。

 それにキコリはそうでもないが、普通はオルフェのようにヴォルカニオンの放つ威圧に気圧されるものなのだ。

 それでも引き返さないのであれば、ヴォルカニオンをナメているも同然だということなのだろう。

 となると、それは……確かに殺されたとしてあまり同情は出来ない。キコリは素直にそう思う。


「そういうことなら仕方ないな。来てすぐ引き返す奴は燃やさないんだろう?」

「ああ、そうなる」

「それなら俺が何か言うことでもないな」


 納得するキコリをヴォルカニオンはじっと見て、静かに頷く。


「納得したなら問題はないな。それで? 今度は何をしに来た。旅は終わったのか?」

「ああ、終わった。今は新しい旅の最中だ……人間の町に行こうとしてる」

「そうか。我は此処から動かぬから知らんが、旅の無事くらいは祈ってやろう」


 ヴォルカニオンは、思う。この目の前にいる最も新しいドラゴンは……あまり長くはもたないだろうと。どんな生き方をしているかは知る由もないが、きっとずっと壊れ続けながら走ってきている。身体がどうこうではなく、心とでも呼ぶべきものが血を流し続けてきたのだろう。その度に補修を重ね、適応して。

 ……恐らく最初にヴォルカニオンに会ったときもすでに、壊れ始めていた。ドラゴンクラウンだけではなく、大切な何かがすでに壊れていたのだ。

 今のキコリは、ドラゴンとしてのエゴを柱にして動いている。それがあまりにも強烈でキコリというドラゴン、あるいは人間だったモノの根本だったから今の「キコリ」が成り立っているに過ぎないのだろう。

 それは……数いるドラゴンの中でも、とびっきりの壊れ方だった。

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