武器のせいで死にたくはないだろう
ミルグ武具店に入ると、店主のミルグが「おっ」と声をあげる。
「キコリか。その剣はオークか? よく倒せたな」
「向こうがこっちをナメてくれたんで、どうにかなりました」
「ふーん。ま、勝ったんだからいいじゃねえか。で? 売るつもりなのか?」
「はい。幾らになりますかね?」
「ま、此処に置け」
カウンターを指で叩くミルグに言われ、キコリは鉈剣を置く。
「ふーん……前に見たものとたいして品質は変わらんか」
「え? 見たことが?」
「そりゃあな。オーク共の使う代表的な剣だ」
そう言うと、ミルグは鉈剣を軽く叩く。
「材質は粗悪な鉄。製法は鋳造。基本的に叩いて潰すタイプだな」
しかし、とミルグは続ける。
「そんなもんでも、オークが使えばフル装備の戦士を一撃で致命傷に出来る」
鉄製の兜が頭蓋ごとぺしゃんこにされるのだ。どれだけのパワー差があるか分かろうというものだ。
「お前が生き残ったのは確かに運だろうな。一体何処まで行ったんだ?」
「いえ、英雄門に比較的近い所に来てまして」
「……何?」
「ゴブリンを殺してました。ゴブリンが何かしたのかなって」
「……」
ミルグは黙り込むと、カウンターをトントンと叩いて考えるような表情を見せる。
「そうか。一応それは冒険者ギルドにも報告しておけ」
「何かあるんですか?」
「それを確かめる必要がある。まあ、念のためだがな。で、この剣だが……そうだな。4000イエンでどうだ?」
「はい、お願いします」
「一応値付けの理由を説明しておくぞ。武器としてはこれはクズ武器だ。だが、一応鉄だから農具だの釘だのに再利用できる。そういった素材としての価値での評価だな」
「問題ありません。俺、そういうの分かりませんし」
「……騙されるタイプだな、お前は」
そう言うとミルグは4000イエンをキコリに渡し、「それで、その弓矢はなんだ?」と聞いてくる。
「これはゴブリンからです。売れるかなって思いまして」
「一応見せてみろ」
ミルグは弓を引いてみたり、矢先を確かめたりして……やがて、小さく息を吐く。
「マトモに評価するなら10イエンだな。凄いゴミだ。捨てるしかない」
「ああ、やっぱり……」
「だが、これは500イエンで買い取っている」
「え、何故ですか?」
「その場に捨てるとゴブリンが拾うからな。町の支援で買い取り強化対象になっている」
弓持ちのゴブリンが無駄に増えても嫌だろ、と言うミルグにキコリは「ああ……」と納得してしまう。
弓持ちのゴブリンの群れに遠距離から狙われたりしたら、とてもではないがやってられない。
「ま、そんなわけだ。今後も弓があったら積極的に回収して来い」
「はい」
「あ、それとだな」
「なんでしょう?」
「オークの魔石も売って金が貯まったら、そろそろ武器の買い替えも考えとけ。その斧じゃ、そろそろ限界がくるぞ」
武器のせいで死にたくはないだろう、と。そんなミルグの言葉にキコリは頷くしかなかった。
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