今までとは全く違うぞ
炎竜領域の先に行くのは、初めてのことだ。
僅かな緊張感と高揚感と共に転移門を潜ると……そこは、何処かの洞窟……いや、穴の中だった。
地面、天井、壁。その全てが土で出来た横穴。
それは「穴」としか言いようがない。
「なんだ……此処は? 今までとは全く違うぞ」
「うわ、何これ。マジで土じゃない。え、怖っ……どうやって成り立ってんの?」
「おや、壁は何か硬い……なんだ? 何かで固めてあるな」
よく見れば、土を透明な何かで塗り固めているのが分かる。
しかしそれが「何」であるのかは分からない。
だが、この何かが土の壁や天井の崩落を防いでいるのであろうことは確かだった。
「でも、怖いな。此処でミョルニルとかグングニル使ったら、此処壊れるんじゃないか?」
「げっ、やめてよ。あたし崩落で死ぬとか嫌よ」
「ああ。でも……俺の攻撃方法がほとんど封じられるな」
ミョルニルは使えない。グングニルも使えない。ドラゴンロアも……念の為、使わない方がいいだろう。
そうなると使えるのはミョルニルを纏わない斧とブレイクくらいのものだが……ブレイクも、過度に魔力を籠めて倒れるのは禁物だ。
更にこの状況では、折角のフェアリーマントも意味をなさない。跳ぶスペースがないからだ。
「……戻る? 今なら簡単よ」
「いいや、戻らない。それに……問題はないさ」
キコリは片手に斧を構え、薄く笑う。
「だって……俺は最初は斧1本しか持ってなかったんだ。それに戻っただけさ」
しかもあの時の斧よりも余程良い斧だ。ならば……充分以上に戦える。
此処に何が出るかなど分からなくても、斧があって、オルフェもいる。
恐れる理由など、何処にもない。
キコリは恐れることなく、穴の中を歩きだす。
「ちょっと待ちなさいよ。ライト!」
オルフェが魔法の明かりを生み出すと、キコリは「あ、そっか」と声をあげる。
「すぐに慣れたから気付かなかった。ていうか逆に眩しい。ちょっと待った」
「そういや普通にあっちこっち見てたわね。これだからドラゴンってのは……」
暗闇程度なら一瞬で適応してしまうのかと、オルフェは呆れながら魔法の明かりを消す。
「あれ? いいのか?」
「あたしは見えるもの。で、アンタも見えてるなら使う必要もないでしょ」
「まあな」
むしろ明かりを灯すことで敵の標的になる可能性もある。
なくて大丈夫なら、わざわざ用意する必要もない。
暗い穴の中を、キコリとオルフェは進んで。
静か過ぎて不気味だと、そんなことを思う。
「……アレか? コボルトの穴みたいな」
「うえー、汚そう」
キコリの冗談に、オルフェも冗談めかして返して。
キチ……と響く金属音のような何かに同時に反応する。
暗くて長い穴の中……その先にいたのは、黒光りする巨大なアリだった。
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