失う事を恐れ、それでも踏み込め

 どんな力も神秘も、それを成立させ得るのは魔力だ。

 故に、どれほど理不尽に思える力も魔力で勝っていれば防げる。


「……そう、か」


 キコリはそれをもう知っているはずだった。

 破壊魔法ブレイク。

 本来であれば全てを破壊する魔法であるはずのソレは、キコリの魔力の少なさ故に何度も防がれてきた。

 だがキコリがドラゴンとなって自分の限界以上に魔力を扱えると同時にブレイクの弱点は消えて失せた。

 つまりは、そういうことなのだ。

 キコリもその気になれば相手の魔法や特殊な技を防ぐことは充分に可能だ。

 勿論、それはまた相応の代償を伴うのだろうが……少なくともあの『生きている鎧』を相手にした時、防ぐことだって可能だっただろう。

 勿論、相応の代償は伴うだろう。簡単にできる事ではない。


「ヴォルカニオン、もう1つ教えてほしい」

「なんだ?」

「俺はこれまで自分の限界を超えた魔力を取り込むことで死にかけてきた。それに『適応』して代償を消す事は出来るんだろうか?」


 もしそれが出来れば、いよいよキコリの弱点はなくなる。

 だが……ヴォルカニオンの返答は。


「それは無理だ」


 そんな、無慈悲なものだった。


「代償を伴わぬものなど、この世の何処にもありはしない。もし存在するなら、それはありえてはいけない歪んだモノだ」

「そう、か」

「失う事を恐れ、それでも踏み込め。それが我等ドラゴンが持つ傲慢の源泉だ」

「……」


 そう、キコリは今までそうしてきた。それは人間ではなくドラゴンの思考だったのだろうか?

 いや、人間だった頃からキコリはそうだった。

 それが人間としてズレていたのか、単に命知らずだったのかは分からないが……。


「ありがとう、ヴォルカニオン。1つ、解決したような気がする」

「それも気のせいだな。我の言葉1つで解決する程度の問題なら、元々貴様の中に答えはあったのだ」

「いや、素直に礼を受け取ってくれよ……」

「断る。この程度のことで恩を着せるのは恥だ」

「そこまで言うか?」

「さっさと行け。これ以上くだらん戯言を抜かせば焼く」


 口の端からボッと火を吐くヴォルカニオンにキコリは降参するように両手をあげて「分かったよ」と答える。

 そうして歩きだして……ふと思い出したように溶けた武具の山を指差す。


「そういえばアレ。人間のだろ? アレからかなりの数が来たのか?」

「人間は想像以上に愚かだが、死の瞬間だけは己の愚かさを悟る。問題は、その悟りを他人に伝授できんことだな」

「……生かして帰せば伝わるんじゃないか?」

「愚かさの代償は死だ」


 まあ、生かして帰すことで更に面倒になる可能性もある。

 あまり自分が口を突っ込む話でもないだろう。

 キコリはそう納得すると、オルフェと共に次の場所へと向けて歩いていく。

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