建前上、そうなっている

「さて、もう1つ。キコリ、君にはこのニールゲンの『土地』が貸与される。これは住民権に紐づくものだが、要は君の家だと考えてくれていい」

「家……」

「今君が何処に住んでいるかは報告を受けている。それを尊重したいが、現状でやかましい連中が君を狙おうとした場合、その方面から攻めてくる可能性が高い」


 つまりアリアをどうにかしようと考える、ということだろう。

 だが、具体的にどうしようというのか? 真正面から来るのであればキコリが矢面に立てば済む話にもキコリには思えていた。


「報告は受けているが……キコリ、君は獣王国では冒険者ギルドからも被害を受けただろう?」

「ええ、まあ……」

「冒険者ギルドの内部の事に関しては国は基本的に不干渉だ。故にああいうことも起きるわけだが」

「そうよ、それよ。国とかいう枠組みの方が強いんでしょ? 干渉すれば面倒ごとの半分は消えたんじゃないの?」


 オルフェが即座にそう突っ込むが、キコリとしてもまあ同意ではあった。

 あの件は獣王国の冒険者ギルドが獣人の冒険者に過剰に肩入れしているとしか思えない出来事だった。まあ、それだけではないが……。


「ふむ、当然の疑問だ。しかしだな、国は『冒険者』というものにあまり力を与えたくないのだよ」

「それは……どういうことですか?」


 矛盾している、とキコリは思う。

 この防衛都市は冒険者の存在によって成り立っている。

 そして防衛都市と壁は世界各国の協力で成り立つものだ。故に、冒険者はこれ以上なく国に貢献しているはずなのに。


「キコリ。君は冒険者としては珍しく善良な気質を持っている。そんな君に聞くが……冒険者になるのは、どんな人間かね?」


 言われてキコリは考える。

 冒険者になるような人間。それは……。


「それしかない人間、ですか?」

「あるいは腕っぷしでの成り上がりを夢見る人間、だな。そうした人間に権力を与える事を嫌う者は多い……文と武に求められる才能は違う、と言い換えてもいいがね」

「そうかもしれません。ですが……」

「そこでランクというものが存在する。持っていれば身分証にもなり、信用の証にもなる。関連する店では割引などもあるし、それを自尊心の源にしている者も多いだろう」

「ランクは虚栄心を満たす為のものである、と?」

「そこまでは言わんがね。君もランクの儚さは知っただろう」

「……」


 何も反論できはしない。実際、その通りであった。

 今は戻ったが、獣王国でキコリのランクは銀から一気に下がったのだから。


「ちょっと、話がズレてんじゃないの? なんで干渉しないのって話でしょ」

「ああ、此処からが本題だ。つまりだね、『冒険者ギルド』はあくまで国が支援する民間組織であり、活躍する冒険者は国ではなく民間の仕事としてやっているに過ぎない。そこで評価されたとして『組織』としての評価になる。建前上、そうなっているというわけだ」

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