理想的ではある

 それはつまり、冒険者としての活躍を個人が評価されることはないという宣言に等しい。

 等しいが、矛盾もある。キコリはそう思う。


「なら、俺を国王陛下が評価されているのはどうしてですか? 先程頂いた住民権もです」

「選別しているのだよ。そういうものを与えていいかをな。そして君は私の期待以上に応えてみせた。故に冒険者ギルドを通さず、こうして直接君に色々与えることにした……というわけだ」


 獣王国での件が、そうした評価に繋がった……つまりはそういうことなのだろうとキコリは考えるが、実際その通りだった。

 ああいう状況に置かれた場合、普通は仕事の放棄に繋がる。

 だがそれは獣王国側の不義理であり、至極当然の結果でもある。

 そして、セノン王国側としては「それ」でも良かったのだ。

 実際に要請に応え、それを現地で手荒い扱いをされ断念せざるを得なかった。そういう結果でも問題なかった。冒険者程度に出来るのはその程度だと王国上層部は考えていたからだ。

 しかし実際はどうだろう。キコリは見事役目を果たし、セノン王国の普人としてこれ以上ない評価を獣王にまでされるに至った。

 これが礼状という形で国王の目に入れば当然「使える人材」として記憶される。

 冒険者ギルド内での評価とかいうものではなく「国」として評価することが今後の為になる……そうした判断が働いた、ということだ。

 しかしセイムズ防衛伯も、わざわざそんな懇切丁寧に伝えたりはしない。

 1から10まで説明しなければいけないようなら、重用する意味もあまりないからだ。

 言ってみればこの謁見は「次の選別」の場でもあるわけだ。


(さて……君はどうかな……?)


 純粋で清廉なだけなら、正直必要ではない。

 だからこそ、セイムズ防衛伯はキコリをじっと見つめて。

 キコリもまた、セイムズ防衛伯を真正面から見つめ返す。


「分かりました。正直模範になれるとは思いませんが、羨望の的程度ならなれると思います」

「うむ、それでいい」


 他の模範など期待してはいない。実力主義の冒険者に礼節がどうのと説いたところで、意味は然程ない。礼節を1つ覚えるよりモンスター知識を1つ覚えたほうがマシだからだ。

 大切なのは「自分も頑張れば国に評価されるかも」と思わせる事。

 栄光への道は自分で駆け上がるものではなく、周囲に舗装されるもの。

 それを理解できる者こそが評価される。

 そういう意味ではキコリは合格だ。合格なのだが……セイムズ防衛伯はこうも思う。


(理想的ではある。あるが……この子はこうしたものに興味が薄すぎる気もするな。しかしまあ、その方が王都の雀共は喜ぶのだろうな)


 正解だ。キコリは人間社会の地位にもはや然程のこだわりもない。

 僅かな楔のみが、ドラゴンとなったキコリを人間社会へと繋ぎとめている。

 それがセイムズ防衛伯に分かるはずもない、真実だからだ。

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