今のキコリにとって、やりたいことは
セイムズ防衛伯の屋敷を出て、アリアの家に戻れば……当然のようにアリアは仕事中で戻ってきてはいない。
だからこそ、キコリはつまらなそうな表情で椅子に座り溜息をつく。
オルフェはそんなキコリをスルーして瓶からナッツを取り出しているので、扱いも慣れてきたといったところだろう。
「……困ったな」
「何が?」
「たぶん前の俺だったら喜んだはずなのに、ちっとも嬉しくない」
「そりゃそうでしょ。今の価値観に合わないものだったらそうなるわよ」
そう、この町に来た頃のキコリなら「此処で生きていく」を目標にしていた。
だからこそ住民権はそれを認められた証として喜んだはずだ。
だが……それが手に入ると分かった時、驚きはしたが喜びはなかった。
それが何故か。ずっと考えていたのだが……。
「それもそうなんだけどな。つまるところ、今の俺にとって『此処で生きる』っていうのは、あまり重要じゃないんだと思う」
「ふーん。じゃあ、次は何を目標にするの?」
「……」
オルフェに聞かれて、キコリは考える。
何をしたいのか。何になりたいのか。何を為したいのか。
考えても、何も出てこない。
今のキコリにとって、やりたいことは……。
「……そういえば。疑問に思ったことがあるんだ」
「それ、目標の話でいいのよね?」
「ああ。あの異界文字のことなんだが……俺、アレは読めなかったんだ」
「そうね」
「勿論、アレが読めないからどうこうってわけじゃないんだけどさ。そもそも俺、共通語の読み書きを覚えるまでは、そういうの一切出来なかったんだよ」
「はあ? それが……って。ん? んん?」
オルフェはナッツを食べる手を止めて、首を傾げる。
おかしい。それは、何かがおかしい。
何がどうおかしいのかを考えて……「あっ」と気付く。
「いや、確かにおかしいわね。前世とかいうのがあるならアンタ……前世でそういうの出来なかったってこと?」
「もう記憶がないから分からない。でも、過去の天才が残した魔法や道具について理解できてたんだ。少なくとも、そういう技術か何か……そんなのが発展した世界の記憶があったのは確かだと思う」
「んー……可能性は3つかしらね」
言いながらオルフェは、指を立てながら可能性についてあげていく。
1つ目、異界文字は裕福な者や貴族階級の為のもので、キコリは同じ世界の前世持ちだが庶民だったので文字を知らなかった。
2つ目、異界文字は此方でいう人類の為のもので、キコリの前世はモンスターか何かだったので文字を知らなかった。
3つ目、そもそもキコリは異世界からの転生者じゃない。
「アタシはどれもあり得ると思うけど。ま、どれだったとしても今のアンタの何かが変わるわけでもないわよね」
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