まずは結論から
「まずは結論から言おう。キコリ、君には防衛都市ニールゲンでの住民権を与える」
「ありがとうございます」
「何それ」
「うむ、妖精殿の疑問ももっともだ。説明しよう」
住民権。その名の通り「住民になる権利」である。
当たり前のようにも思えるが、各都市において「住民」とは、ただ其処に住んでいる人間の事を指さない。
きちんとした権利を得て、法的に「そうである」と認められた者が住民なのだ。
そして防衛都市という場所においては防衛伯のみが正式な住民である……と聞けば、誰もがその重大さを知るだろう。
冒険者ギルドの支部長だろうと衛兵隊の隊長だろうと、防衛都市においては正式な住民と認められないのだ。
「だが、もっと言えば私とて防衛伯の爵位をお返しする時には住民権もお返しすることになる。つまり本当の意味でニールゲンでの住民権を持つのはキコリ……君だけということになるな」
「ふーん、全然興味ないけど価値があるんだってことは理解したわ」
「うむ」
聞きながら、キコリは「そんな価値のあるもの」が自分に与えられた意味を考える。
防衛都市はその性質上、あらゆる全てをもってして今はダンジョンとなった場所からの侵攻を防ぐ場所だ。
つまり住民の権利などというものはあるだけ邪魔なわけだが……あえてキコリに住民権を与える。
それは、キコリをニールゲンに縛る意味があるようにも感じられた。
勿論、キコリはそんなことを真正面からは言わない……のだが。
「で? そんなことする理由は何? キコリにその権利とやらをあげれば此処に縛れると思った?」
だが、オルフェには一切関係ない。人間とか基本的にどうでもいいからだ。
だからこその遠慮も何もない発言にセイムズ防衛伯は笑う。
「ハ、ハハハ! そんな大層な意味はない。だが普段居ない街の住民権など得たところで意味も無し。これは国王陛下よりキコリへ授与された『ひとまずの褒美』であると考えたまえ」
「はい。感謝しております」
「うむ。それで、だがな。君へのちょっかいは可能な限り防ぎ続けているが……今後まだしばらくは過熱したままだろう。良い話にせよ悪い話にせよ、何かあれば私に投げたまえ。どうせ君にたかる虫だ、ロクなことにはならん」
「は、はは……」
商人だろうと貴族だろうと、防衛伯の睨みを受けてなお何かやるならそれなりの力を持った者たちであるだろうに……それを虫と言い切るセイムズ防衛伯は頼もしい。
しかし同時にそういった諸々を「煩わしい」と思ってしまうのも……また、キコリの偽らざる正直な気持ちでもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます