大局的視点というものを持たんアホ共

 立派な絵。同じく立派な彫刻像。高そうな壺。

 まあ、どれもキコリには縁がなさすぎて分からないのだが……そうした物の並ぶ場所を抜けて、キコリたちは1つの部屋の前に案内される。


「閣下、お客様をお連れしました」


 そうして開かれた扉の先。質実剛健という言葉が似合う机に向かい座るセイムズ防衛伯の姿がそこにあった。


「うむ、よく来たなキコリ、そして妖精殿。さあ、遠慮せず入るがいい」

「失礼します」


 頭を下げて部屋の中に入れば、執事が外から扉を閉めて。

 セイムズ防衛伯が立ち上がり、歩いてきてキコリの肩を叩く。


「まずはよくやったと伝えておこう。イルヘイルからも獣王国側からも礼状が届いている。特に君の活躍については国王陛下もお喜びでな。何らかの形で報いたいと仰せだ」

「こ、国王陛下がですか⁉」

「うむ。向こうのギザルム防衛伯殿にえらく気に入られたようではないか。そこから獣王陛下へも報告がいってな。『くだらぬ悪習に曝されてなお腐らず両国の懸け橋となるその姿勢、そして武功たるや見事!』と仰られ、我等が国王陛下へと礼状を送られたそうだ」


 獣王国から送られたものは礼状だけではなく、要請に応えてくれた礼という形で相当量の財物も贈られたらしく……それは単純に「お礼」ではなく両国の友好の再確認の意味もあったらしい。

 つまるところ外交的にも手柄をあげることになったキコリに国王が「何か褒美を」と仰られた……というのが一連の経緯であったらしい。


「しかしまあ、そのおかげでまた騒ぎが大きくなってしまったようでな。大局的視点というものを持たんアホ共がピーチクパーチクと騒ぐ騒ぐ。ほれ、最近吟遊詩人どもが歌っとるのがあるだろう。聞いたかね?」

「はい。『少年と妖精の物語』……ですよね?」

「そうだ。凄いぞ? 王都の歌では君は妖精に聖剣を授かったことになっとるらしい」

「ええ……?」

「困ったものだ。聖剣を国に献上させるべきでは、という阿呆な手紙を送られる身にもなってほしいものだ」

「その、それって国王様は……」

「国王陛下はそんなものを真に受けるお方ではない。心配要らんよ」


 セイムズ防衛伯は大きな溜息をついて天井を見上げる。


「君を此処に呼ぶのが遅れたのもその辺りが理由でな?」


 そう言ったあたりで丁度、扉を叩く音が聞こえる。


「失礼します。お茶をお持ちしました」

「うむ。よし、いつまでも立ったままではなんだな。其処のソファに座るといい」


 促されソファセットに座ったキコリと、その近くに浮くオルフェだったが……少なくともお茶とお菓子が出される程度には「面倒な話」が出るのは確定だな……と、そんなことを考えていた。

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