死なせられない

 キコリとオルフェのコンビは順調にワイバーンを落としていき、生き残りの妖精もキコリ達に合流し始めた。


「アイスアロー!」

「メガボルト!」

「エアーカッター!」

「ミョルニル!」


 妖精たちの魔法とキコリのミョルニルのかかった斧が囲むように1体のフレイムワイバーンを狙えば、流石のフレイムワイバーンも避けきれずにどれかに命中し地上へ落下していく。

 だが、それでもワイバーンの数は多い。

 鎧にあらかじめチャージされていた魔力は……不思議と、まだ尽きる気配がない。

 というか、攻撃が命中する度に充填されている。


(……まさか、この斧……)


 鎧に吸い込まれる斧だ、魔力を吸収する機能があってもおかしくはない。

 なんとなくそれを感覚で悟りながら、キコリは妖精たちと燃える森の中を駆ける。

 魔力をチャージしていく度に高まる高揚感を抑え込みながら、キコリは戦況の不利を悟る。

 相手は増援が続く、20を超えるフレイムワイバーン。連中の狙いが何かは分からないが、妖精にも非常に敵対的だ。

 もし此方同様に一斉に攻撃でもされたら、もたないのはキコリたちだ。


「……オルフェ。限界だと思う」

「キコリ! アンタアイツ等を放置するって言うつもり!?」

「このままじゃ、こっちが全滅する。分かってるだろ?」

「……っ」

「生き残りの妖精を集めて離脱しよう」

「いないよ」


 妖精の1人の言葉に、キコリは「えっ」と声を上げる。


「他の仲間の魔力が、もう感じられない。皆死んじゃった」

「……そ、うなのか」


 キコリがオルフェへ振り向くと、オルフェは悔しそうに拳を握りしめている。

 オルフェにも分かっているのだろう。このままでは、この区域の妖精は全滅する。


「……何処に逃げるってのよ」

「空間の歪みの外だ。そこに森がある」

「……」

「オルフェ」

「うるさい! あたしは……!」

「オルフェ、もうダメだよ」

「行こう、オルフェ」


 空を見上げれば、ワイバーンたちが森を燃やしながら此方に近づきつつある。

 だが、他の妖精たちの言葉にもオルフェは反応しない。

 オロオロする妖精たちを見て、キコリは意を決したようにオルフェを掴む。


「ちょっ」

「行こう、皆!」


 走り出すキコリに妖精たちもついてくるが、オルフェはキコリに掴まれたまま叫ぶ。


「離せ! 離せ馬鹿!」

「ダメだ! 死なせられない!」

「なんでよ! アイツらを殺すのよ! あとあれだけじゃない!」

「まだあれだけいるんだ! しかも増えるかもしれないだろ!」

「そんなもの! 離せー!」

「嫌だ!」

 

 暴れるオルフェを離さないキコリの手の中で、オルフェは暴れて。

 やがて、暴れるのをやめた時。


「……くそう、くそう……」


 オルフェは、悔しそうに泣いていた。

 キコリは、何も言わずに走って。オルフェを含む、たった10体の妖精たちと空間の歪みへと飛び込んだ。

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