バカには使えない

「い、今のは……」

「なん、だ?」


 恐る恐るキコリとドドがそう尋ねるが、オルフェは吹き出た汗を拭い……明らかに極度に疲労していた。


「あー……キコリ、こっち」

「お、おう」


 キコリが近づくと、オルフェはその頭の上にぺたりと倒れこむ。

 兜がヒンヤリしていて気持ちいいのだろうか、「うあー」と呟いている。


「えーとね、新魔法作った。何やろうと仕込もうと魔力で勝ってればブチ抜くやつ」

「あー……なるほどな。そういうのって魔法弾くやつにも有効なんだな」

「魔力攻防の理論のこと言ってんなら違うわよ。魔法を弾くってのは素材的な問題だから」


 メタルゴーレムとアイアンゴーレムの違いは素材だ。

 通常の金属とは異なる特殊な金属で構成されたものをメタルゴーレムと呼ぶが……その中に「魔法を弾く」個体はよく存在する。

 通常の攻防にプラスアルファされる存在であり、いわば徒手格闘の試合でプレートメイルを相手が着込んできたようなもの、といえば大体の者は理解する。

 そんな鉄板を素手で殴ったところでほとんどの場合効果はないが、たとえば「鉄を素手で貫く技」と「それを可能とする筋力」が揃えば、どんな分厚いプレートアーマーでも理論上はぶち抜ける。

 オルフェの「フェアリーケイン」は、そういう魔法だ。勿論力尽くでも同様のことは可能だが……それよりは頭の良い手段と言えるだろう。


「凄いな。俺のブレイクみたいなもんか」

「ふざけんじゃないわよ。あれは力尽くの極致でしょうが。『殺せば死ぬよね』みたいな魔法でしょ」

「ひどい評価だな……」

「ま、アレに使わなかったのは正解だけど。多少でも弾かれたらどんな影響出たか分かったもんじゃないし」


 そう、キコリがブレイクを使わなかったのはそれが理由だ。

 ブレイクが相手に触れて使う魔法である以上、弾かれて影響が出るのはキコリだ。

 そこで何が起こるか想定できなかったからこそブレイクを使う選択肢はなかった。


「……すまない。ドドはまず、そのブレイクも分からない」

「そのうち見せる機会もあるでしょ」


 オルフェは一言で切って捨てるがドドは「そうか」と納得したように頷く。

 素直なんだな……とキコリは変な感想を抱くが、すぐに気持ちを切り替える。


「それより、こんなものが出るなんてな……オルフェのアレも乱発できるものじゃないだろ?」

「そりゃそうよ」

「俺にその魔法使えたりって」

「またぶっ倒れたいの?」

「よし、使えないな」

「あとバカには使えないから」

「なんで追い打ちかけたんだ?」


 アンタがバカだからよ、と更なる追撃をかけてくるオルフェにキコリはちょっとへこんだが……次に会ったら逃げることも視野に入れる、という結論になったのだった。

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