万物の上に立つ力を得るとは

 言った、その瞬間。シャルシャーンの顔面にアイアースの飛び蹴りが炸裂した。

 とにかく最短距離で最大ダメージを。そう考えたのがよく分かる蹴りだった。

 だがシャルシャーンは飛び蹴りを軽く避けて回避し……アイアースはそのまま、なんと空中で体勢を変えて後ろから回し蹴りをくらわせてシャルシャーンを吹っ飛ばす。

 そのまま吹っ飛んだシャルシャーンをドンドリウスがチンピラの如きキックで蹴って転がして止めるが、シャルシャーンは「痛いなあ」とたいして痛くもなさそうな表情で立ち上がる。


「いきなり何をするんだい?」

「人の家だから肉弾戦でやったんだ。でなきゃもうブレス吐いてる」

「アイアースに常識があったとは新発見だが、私も概ね同意する。そんなクズな計画を立てていたなら、もっと早く言ってくれ。そうすれば縁切りしたものを」

「言いたい放題だなあ。しかし他にやりようがあるかい? 神々はずっと世界の安定のために細かい調整を続けているからお出で願うわけにはいかない。ボクの復調を待つ時間はなく、君たちはどうかといえば……何処ぞで転生者の下僕になってみたり、ゼルベクトの力に影響されてみたり。人間もダメで、モンスターの中にもゼルベクトに導かれた転生者が混じる始末だ。この状況で使えそうなモノを育てて何が悪いというんだい?」


 その言葉にドンドリウスは黙り込んでしまう。確かにそれについてはドンドリウスは何も言えない。それに……シャルシャーンの言うことは世界の守護者としては正しい。

 世界を守るための戦力を育てること。更にその次を見据えること。そこに自分を駒として何のためらいもなく据えること。どれも……ドラゴンとしては正しい選択だ。

 しかし、どうやらアイアースは違う意見のようであった。


「ふざけんなよ。ゼルベクトに対抗するためにゼルベクトみたいなもんを作ります、だあ? キコリがそんなもんを望んでたとでも思ってんのか」

「……彼はいずれそうなったよ。ボクはそれを手助けしたに過ぎない」

「このクソが。手助けってのはな、良い方向に導いてやることなんだよ。落とし穴に突き落とすのは手助けって言わねえんだ」

「彼にそんなものはないよ。誰かのために自分を削り、それで幸せになれると信じて死んでいく。彼はそういうタイプの人間だ。ならば世界のために役立つべきだ」

「それはキコリの幸せじゃねえ」

「ドラゴンに到るということは、そういうことだよアイアース。ボクたちは世界のために死ななければならない。万物の上に立つ力を得るとは、そういう責任を負うということだ」

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