あたしの事も思ってくれるならね
「い、いや。確かにあの時倒れたけど」
「死にかけたのよ」
オルフェはキコリの目の前まで飛び、その眉間に指を突き付ける。
「忘れたとは言わせないわよ」
「……忘れてないさ」
「ホントかしら。なら倒れた理由について自分の中で整理もついてるんでしょうね」
「ドラゴンブレスを撃ったからだろ。分かってるさ」
「やっぱりじゃないバカ。バカ、バァカ」
眉間をビスビスと突いてくるオルフェから逃げようとキコリは顔をずらすが「逃げてんじゃないわよ」と叩かれる。
「それがドラゴンの力だからよ。人間の域で使えるのは所詮人間に出来る事までよ。アンタはドラゴンのくせに自分を人間の域に収めて、そのくせしてドラゴンの力を使った。だから壊れたの。出来るはずがないことをやったから」
たとえば、理論上ダイヤモンドは壊す事が出来る。
だからといって人間が拳でダイヤモンドを破壊する一撃を放つという「結果」を持ってきたとする。
ダイヤは破壊されるだろう。ダイヤを壊す一撃を放ったのだから。
ならば、それを放った人間の拳はどうなるのだろうか?
答えは単純だ。その威力を放った代償を支払う。これが真理だ。
キコリがやったことは、それと同じなのだ。
「傷は治したわ。アタシが命を繋いで、妖精の仲間も含めた全力でね。でもあの時、確実にアンタは『何か』を失ったはず。アタシには、それが何か大体想像もついてるわよ」
「な、なんだよ」
オルフェがズイと近寄ると、キコリは椅子を引いて下がって。
その顔を、僅かに赤くする。
「人間への興味。ないでしょ」
「は?」
「分かるのよ。前のアンタはなんていうか、相手から良い印象得ようとか、そういう小賢しさがあったもの」
「いや、そんなことは……」
あった、かもしれない。
故郷で嫌われ過ぎていたから、好意は嬉しかったし絆も大切にしようと考えていた。
だが……それは今も同じはずだ。
「そんなことはないだろ。俺は変わってない」
「そうかしら。アンタ、あたしにした何とかって獣人の話……覚えてる?」
「クーンだろ。覚えてるさ」
「仲間だったとかいう割にはあたし、1度しかその話聞いたことないけど。この町に居るんじゃないの?」
言われて、キコリは思わず心臓がドクンと鳴るのが聞こえた気がした。
クーン。キコリの初めての仲間。
忘れるはずがない。色々あって離れてしまったが、大切な仲間で。
「探す気も見えなかったし。別に会えなくてもいいと思ってたでしょ?」
「違う。俺は」
汗が流れる。
そんなはずはないと、必死で何かを思い出そうとするキコリの頬に、オルフェの手が触れる。
「ごめん、追い詰めちゃったわね」
「オルフェ。違うんだ。俺は」
「いいのよ。こだわるのも分かる。そんな簡単に割り切れないわよね」
もう、キコリは何を言えばいいのかすら分からなくて。
「でも、早めに認めた方がいいわ。その上でどうするか考えた方がいい。アンタを『人間』に縛り付けてるのって、あのアリアとかいう女への恩とか親愛とか、そういうのでしょ?」
「……それは」
「別に捨てろとは言わないわ。アタシだってまだ人間の頃のアンタに付いてって、今此処にいるわけだし?」
「……」
「言わないけど。そのままだとアンタはいつか必ず死ぬ。あたしはアンタを死なせるつもりはないけど、正直今回の件も嫌な感じはするし……早めに決断しといた方がいいと思うわ」
あたしの事も思ってくれるならね、と。
そう言ってリンゴをシャクシャクを食べ始めるオルフェに……キコリは短く「ああ」とだけ答えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます