あたしはそういう生き方は薦めないわ

 シチューを食べ切って、リンゴを剥く……端からオルフェが手を伸ばしてシャクシャクと食べていく。

 その小さな身体の何処にそれだけ入っているのか、キコリには良く分からないが……ふと手を止めてじっと見ると、オルフェは林檎を食べる手を止める。


「なによ」

「いや、何処にそんなに入ってるのかなって思ってさ」

「何処って。全部魔力に変換されてるに決まってんじゃない」

「そういうもんなのか?」

「人間じゃあるまいし、摂取したものは全部エネルギーに変わるに決まってるじゃない」

「そんな事言われてもなあ……」

「つーか、アンタもドラゴンでしょうが」

「そうだけどさ」


 リンゴを剥く手を再開して、切って皿に載せていく。

 2個のリンゴを全部剝き終わって皿に載せ終わった……はずなのだが、もう半個分くらいしか残っていない。


「でも俺は普通にトイレとか行くしな……」

「それはねー。アンタがそういうものだって信じ込んでるからよ」

「え?」


 オルフェはリンゴを食べた手を何処かで拭こうとして……その辺をフワフワ飛んだ後、タオルを持って飛んでくる。


「究極的に言えば食事だって必要ないのよ」

「食べてるじゃないか」

「美味しけりゃ食べるわよ。つーかアンタ、ゴブリンみたいなザコが普段何食べてると思ってんのよ」

「……木の実とか?」


 キコリの答えにオルフェは馬鹿にしたようにハッと笑うが、まあ今の答えは自分でも酷かったとキコリも思っていた。


「答えは『食べられるときしか食べない』よ。人間が汚染地域って呼んでる場所に魔力はいっぱいあるんだから、それ食べてれば充分なのよ」

「え? じゃあ俺もそうなのか?」

「そぉよ。自覚無かったの?」

「いや、ないな……」


 言いながらキコリはリンゴをシャクリと齧る。

 普通にお腹は空くし、食べ物も美味しいと思う。

 何も変わっていないように思えるのだが……。


「変わってるわよ。意識が追いついてないだけ」

「ごめん、分からん」


 言いながらリンゴに更に手を出そうとすると、オルフェにぺしっと叩かれる。


「あたしのよ」

「お、おう……」


 皿を自分の前に引き寄せるオルフェを見守って。

 完全にキコリの手が届きそうにない場所まで持っていくと、オルフェは満足したように「ふう」と息を吐く。


「難しい話じゃないわよ。人間として生きようとしてるから、身体がそういう風になってるってこと。でも、あたしはそういう生き方は薦めないわ。人間の器にドラゴンの力は収まらない……それは前にグレートワイバーンとやりあった時に思い知ったと思ってたけど?」

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