不在のシャルシャーン

「理解、してない?」

「ああ、君は竜鱗を鎧として纏うが故に、自分の一部と認識できていない。これは爪についても同じことが言えるね」


 ドラゴンの鱗は生半可な攻撃は弾き、ドラゴンの爪は鉄など紙切れのように切り裂く。

 しかし、キコリはどうか。斧は防がれることも多いし、鎧も貫かれることが多い。

 同じドラゴンなのに、どうしてそんな差が出るのか。キコリは単純に自分の力量故だと思っていたのだが……。


「アレは魔力で満たしてこそ意味があるものだよ。君の……ミョルニルだったかな? アレが丁度正しい使い方に似てはいる」

「似ているって……」

「君の爪を……斧を出すんだ、キコリ。身体に直接教え込んであげるよ」

「お、斧を? でも、それは」


 仮にも女の子の姿をしている……それでも敵でもないシャルシャーンに斧を向けることをキコリは躊躇うが、そんなキコリにシャルシャーンは快活に笑う。


「アハハッ! ボクの姿に遠慮して斧を向けられないかい? でもね、キコリ」


 シャルシャーンの姿が、一瞬でキコリの前に現れる。変異した腕と爪が、キコリの頭を消し飛ばして……いや、消し飛んでいない。違う。消し飛びかけて、元に戻ったのだ。

 その痛みすら感じない消失の瞬間を、キコリは確かに体感した。


「このボクの姿は単なる戯れだと忘れちゃいけないよ。それでもやる気が出ないなら、趣向を凝らしてみよう」

「そう、たとえば」

「こういうのはどうだい?」


 背後から、そして横から……別の人影が現れる。

 1人は、メイスを持つ美しい美青年。1人は、シミターを持つ妖艶な美女。しかし……感じる気配は、どちらもシャルシャーンのものだ。

 そして正面のシャルシャーンは、ショートソードをいつの間にか構えている。


「な、はあっ……!?」

「どれもボクだ。偽物でも分身でも何でもない、本物のボク自身だ。いや、全てが偽物とも言えるが……まあ、そんなことはいいね。君が今知るべきなのは、この武器は君の斧と同じ理屈で出来ているということだ」


 分からない。分からないが……シャルシャーンがとんでもない力を持っているという事実は、キコリに滝のような汗を流させていた。

 舐めていたつもりはない。しかし、まさかここまでのものだとは思わない、思えない……いや、それすらもシャルシャーンの力によるものだったのか。


「何やら余計なことを悩んでるようだけど……言っただろう? ボクは不在のシャルシャーン。何処にでもいるし、何処にもいない……『いない』ものを感じ取れるはずもない。だから気に病むこともない。重ねて言うけど、君が覚えるべきは……自分の力の、使い方さ」


 そうして3人のシャルシャーンがキコリへと襲い掛かった。

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