君のドラゴンとしての形

 キコリは鎧兜と斧を一瞬でフル装備し、3人のシャルシャーンを迎え撃つ。

 まずは正面。振るった斧は側面を拳で叩かれ、斬撃がキコリの鎧にギャリンッと不快な音を立てながら放たれる。

 確実に当たったのに、避けても鎧の裂かれた先程の爪とは全く違う結果に、キコリは僅かな疑問を覚え……しかし、美青年シャルシャーンの背後からのメイスの一撃に跳ね飛ばされ転がっていく。

 美女シャルシャーンのシミターの一撃はその影響で外れたが……立ち上がりながらも、キコリの中の疑問は増えていく。


(アレはシャルシャーンの『爪』だろう? 同じなのに、どうしてこんなに違うんだ?)


 生身で受ければ無事では済まない威力なのは変わらない。変わらないが……明らかに威力が低い。低すぎる。あの程度ではキコリの命は奪えても、強大な相手には届かないだろう。

 先程の爪と違い過ぎる。同じ爪であるはずなのに……。


「ああ、そうか。それが魔力の差か」

「その通りだ」


 美青年シャルシャーンのメイスが、先程とは比べ物にならない威力でキコリを大地ごと叩き潰して。しかし、その瞬間にはキコリは大地ごと再生している。いや、再生させられた……のだが。

 そして美青年シャルシャーンと美女シャルシャーンが消え、最初のシャルシャーンだけが残り……キコリの前まで歩いてくる。


「分かったかい? 君は自分の力を使えていない。しかし、仕方のないことでもある。君はその性質上、常時強大な魔力を維持し使用することが難しい。それは君に決して小さくはない変容を招くからだ。それを本能で理解しているからこそ、君はいざという時にしかその力を使わない」


 それは、キコリも自覚はある。

 削れた記憶。性格や感情……いや、人格の少なくない変化。肉体の強化度。

 様々なものが「ドラゴンになる前」とは変わってきている。

 そしてそれが、恐らく止められるものではないことも。


「君が旅に出た理由もボクは知っている。君自身、自覚はしていないだろうが……それは君がその形を保つ為のエゴの強化だ。君は他のドラゴンに会い、生き方を確定しようとしているんだ」

「……分からない」

「全ての生物は先達から生き方を学ぶ。君もまたそれに倣っているということさ」


 キコリが人ではなくドラゴンになってしまった以上、ドラゴンから学ぶしかない。

 他の誰もキコリに教えることなど出来ないのだから。


「その上で言おう。人間を気取るのは諦めたまえ。君のドラゴンとしての形は、すでに君自身が定義している。余計な方向に進む前に、まずはそれを固めてしまおうじゃないか」

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