失敗しても死ぬだけだ
「俺の、形?」
「コレだよコレ」
シャルシャーンは言いながら、自分のショートソードを指し示す。
つまり、キコリの斧のことなのだろうが……これが何だというのか、キコリには分からない。
「君は自分のドラゴンとしての姿と力を『自分』ではなく『外部』に託した。その理由はまあ……知っているけども」
「俺がこの姿にこだわってるから、だよな」
「その通り! 故に、君は『それ』を使えるようにしなければならない。こういう風にね」
言うと同時、シャルシャーンの短剣が過剰な魔力により薄く輝き始める。
それは威圧すら伴って……初めてキコリたちがヴォルカニオンに会った時のそれを連想させた。
「簡単な話だろう? 自分の一部に魔力を流し込むだけだ」
「そうだな。俺にだって、出来る」
実際見れば、キコリにだって理解できる。斧へと魔力を流し込み……しかし、目の前でシャルシャーンが呆れたような顔をしているのに気付く。
「おいおい、誰が斧だけに流せって言ったんだ。君のその立派な鎧は君の鱗だろう?」
「うっ」
斧だと簡単に分かるが、鎧に魔力を流すとなると……やってみても、籠手や足だけに魔力が流れて終わってしまう。全身ならともかく「全身の鎧」に魔力を流すという感覚が、まだ掴めていないのだ。
「うーん、世話が焼けるなあ君は」
シャルシャーンは優しげに微笑むとショートソードを消し、拳を握ってファイティングポーズをとる。その手にはガントレットが現れ……キコリを素早い打撃で殴りつける。
瞬間、打撃を受けた部分にヒビが入り、キコリは今のガントレットにも魔力が込められていることに気付く。
「ぐっ……!?」
「予定通り、身体で覚えるまでやろうか。大丈夫、ボクがやるのは君が得るべきモノの真似事だけど……それでも、君にどういうものか教えてあげることは出来るから」
相変わらずシャルシャーンの言う事はよく分からないが……それが出来たなら、キコリの実力は今よりも上がることは確実だ。
だから、キコリは斧を握って。そのキコリの顔面を、兜ごとシャルシャーンが蹴り抜く。
「いや、鎧の損傷なんか即座に直しなよ。君のソレはそういうものでしょうが」
「こ、の……っ!」
振り下ろしたキコリの斧をシャルシャーンは僅かな動きで避け、ヒビの入った鎧に再度打撃を加え完全に破壊してしまう。
「ほら壊れた。すぐ鎧を再生しないと死んじゃうよー? まあ、死ぬ直前で回復してあげるけど」
「そのくらい……出来る!」
「そうだねー、意味はあんまりないけど」
再生した鎧をシャルシャーンの拳が砕き、キコリごと吹っ飛ばす。
倒れたキコリをシャルシャーンのスタンピングが襲い、キコリは転がりながら回避し鎧を再び纏う。
「分かってると思うけど、君に必要なのは常時魔力を流し込むことでもなければボクの攻撃を完璧に防ぐことでもない」
シャルシャーンは言いながらキコリを蹴り飛ばし、追撃をかけていく。
魔力を籠めた斧でそれを防御するが……それを出来るだけの魔力を常時維持することで、キコリの中で警報じみた痛みが起こる。
「が、はっ……」
膝をついたキコリを見下ろしながら、シャルシャーンは言い放つ。
「君がやるべきことはね。瞬間的に最強の自分を作ることだよ」
「瞬間的に……? 一撃に賭けろって意味でいいのか?」
「理解しただろう? 君は継続的な戦闘に致命的に向いていない。だから、一撃で全てを消し飛ばすんだ。なあに、失敗しても死ぬだけだ。今までと何も変わらないだろう?」
微笑むシャルシャーンの顔には冗談の色は一切浮かんではいない。
そしてキコリ自身……それが自分によく合っていると、そう感じていた。
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