正常な世界の象徴
3日後。訓練を修了したキコリとシャルシャーンは、草原を歩いていた。
キコリは疲れ切った顔をしているが、シャルシャーンはご機嫌だ。
「……楽しそうだな、シャルシャーン」
「そりゃあもう! この人形相手といえど、君は見事にやり遂げた! こんな素晴らしいことはないさ」
「人形……そういえばシャルシャーンはヴォルカニオン寄りの姿だって聞いた覚えがあるぞ」
「そういう姿もとれるね。そもそも今のボクにとって姿形はあまり意味をなさないのさ」
シャルシャーンはそう言って笑うが……あくまでシャルシャーンの言によると、今のシャルシャーンに本体と呼ぶべきものはないらしい。
そうなったのは、ダンジョンがダンジョンとなる前……「歪み」を作り出した人間の影響をどうにかしようと際にそうなったらしいのだが。
かといって死んでいるわけではなく、それこそがシャルシャーンの「不在」の本質である、らしいのだが。キコリにはよく分からない。
ただ本人の言葉通り「何処にでもいて何処にもいない」状態ではあるらしい。
「それより、ダンジョンが変わった……って言ってたよな」
「その通りさ。迷宮化、と君たちは呼んでいたけれど……中々本質を突いた言葉だとは思うよ。この現状は世界の歪みの具現化だ。いずれ、取り返しのつかない事態だって起こるかもしれない」
「……あんまり答えになってないな」
「そうかい? じゃあ、こう言おう。常に変わり続けている、異常なまま正常になろうとしている。その段階が大きく進んだ……やがてダンジョンと呼ばれる場所は、それに相応しいものへと変わるだろう。あの偽ドラゴンは、それを引き起こしたのさ」
ダンジョンと呼ばれるに相応しいもの。その意味を考えながらキコリは頷く。
しかし、そうだとすると……疑問に思うこともある。
「そんな場所にドラゴンがいていいのか? 一番悪影響な気がするんだが」
「とんでもない。ドラゴンは正常な世界の象徴そのものさ。むしろ、いなければならないんだよ。その存在が杭となる」
「……俺も?」
「君は好きにしたらいい。針ほども影響はないからね」
スッパリとそう言うシャルシャーンにキコリは苦笑するが……ふと足を止める。
「ところで、そろそろオルフェとドドについて教えてくれてもいいんじゃないか?」
「そうだね。ボクが保護していたが……ま、そろそろいいだろう」
言いながらシャルシャーンが取りだしたのは、2つの宝石だ。その中には……人のような形の何かが入っているのが見える。
「さて、キコリ。2人にはボクのことはとりあえず秘密だよ。そうだな……『シャル』ってことにしよう」
「え、どうして」
「君だってオークには隠してるだろ? 似たような理由さ」
そして、宝石が弾かれて。輝く光の中から、オルフェとドドの姿が現れた。
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