竜鱗

 戦い方を学ぶ時間がある。そう言われても簡単に納得できるはずがない。

 ないが……続くシャルシャーンの言葉にキコリは驚愕する。


「迷宮化が一段階進んだ。あの偽ドラゴンの影響だね」

「迷宮化が、って。じゃあまた道が変わったのか……!?」

「そんな軽い問題じゃない。ボクは迷宮化が『進んだ』と言っただろ?」


 違いが分からずキコリは何を言えばいいか分からなくなってしまうが……深刻だ、ということくらいは理解できる。だから、素直にそれを問いかける。


「迷宮化が進んだなら……今、何が起こってるんだ?」

「分断されたダンジョンの統合が進んでいる。何もかもが変わっていく……世界の混沌は強まっていくだろうね」

「混沌……ダンジョンの元となったモノが出来たのは人間が招いたことだって聞いた。それが、そんなことになるものなのか?」

「なるさ。いつだって何だって思わぬ事態を引き起こす。生きるってのはそういうことだ。故に誰も止めはしない。限度を超えるなら、磨り潰すけどね」


 知っている。以前聞いたことがある。シャルシャーンは、以前「そういうの」を磨り潰したことがあると。だからこそ、キコリは疑問に思う。


「……俺にやらせる理由は」

「君が先にアレに嚙みついたからさ。責任もって噛み殺してきてもらわないとね」


 言われて、キコリは思わず頭を抱えてしまう。そういう言い方をするということは、つまり。


「もしかして俺、余計なことしたか?」

「いや? あの状況で噛みにいかないのであれば、君の精神はドラゴン足り得ない。バーサーカーだっけ? いいよね、それ。非常に良いとボクは思うな」


 なんとも言い難いが……キコリにも状況はある程度だが理解できた。

 オルフェも無事で時間もあるというのであれば、今はそれを信じるしかないのも事実だ。


「それで、俺は何を学べばいい」

「んー、そうだなあ。とりあえず……ボクと組手しよっか? 君は本気でいいよ。ほら、かかっておいで」

「……何も思い出せてなかったさっきとは違うぞ」

「わー怖い。ほらおいで」


 ちっとも怖がっていない様子のシャルシャーンにキコリは突進する。

 人間の形をしているのであれば、少なくともサイズ差を考える必要はない。

 突然現れる尻尾も、先程見た。ならば、今度は。

 そうして襲い掛かったキコリは、その寸前でバックステップする。

 ほぼ反射的に装着した胸部鎧についた、深い爪痕。シャルシャーンは、サイズはそのままに腕をドラゴンのものに変えていて……その鋭い爪がキコリの鎧を斬り裂いたのは明らかだった。


「うんうん。鎧を竜鱗と定めるのは良いアイデアだね。その発想はボクたちにはなかったものだ」


 でも、とシャルシャーンは言う。


「だから弱い。脆い。君は竜鱗というものを全く理解していない」

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