あの偽ドラゴンを殺す理由

「……聞いた覚えはある、気がする」

「ふむ。記憶の混乱だね。しかしまあ、そのうち治る」

「そうなのか?」

「そうだとも。それより、今は君だ」


 シャルシャーンはそう言うと、キコリに人差し指を向けてくる。

 その表情は、何処となく不満そうだ。


「今のところ、記憶を取り戻した君の辿る道は『完膚無き死』だ」

「いや、待ってくれ。確かにどう負けたのかも思い出せてないけど、そんな……」

「何も出来ずに負けたんだよ。理由は単純で、力負けだ。これは本来起こるはずがない事態だ。しかし、君の場合は起こり得る。それは君自身の魔法への才能の無さ、興味の無さから起こることだが……いや、やめておこう。君は頭もよくない。話についてこられると思えない」


 散々言われているが、実際あまりついていけてないのでキコリは黙る。


「だから、1つだけ言おう。君は、君のままで君を負かした相手に勝たねばならない。ボクたちにとって一番恥ずべきことは自分のエゴを捻じ曲げることだ」

「……意味が分からない」

「いいや、分かるはずさ。それこそがボクたちの絶対論理だ」


 シャルシャーンは、キコリの額に指を突き付け、笑っていない目で笑う。


「捻じ曲げるんじゃない。捻じ伏せろ。ボクたちの特性は、その為のものだ」

「……捻じ伏せる」

「そうさ。あらゆる全てに適応し捻じ伏せろ。絶対に捻じ曲がるな。それを許容すれば、自分を見失うよ」


 ズキン、ズキンと。キコリの頭を頭痛が襲う。

 何かを思い出しそうで……骨のドラゴンが、頭の中をよぎる。


「そうだ。骨の、ドラゴン……」

「あんなものはドラゴンじゃないさ。だが、力は凄まじい。君が勝つには、命を懸けてもまだ足りないだろうね」


 瞬間、頭の中で記憶が繋がっていく。骨のドラゴン、オルフェ、ドド。そして……。


「そうだ、オルフェ! 無事だって言ったよな!?」

「ああ、言ったよ。無傷で君の元へと返せる……しかし、それには条件がある」

「……あの骨を倒せって言うんだろ。トルケイシャとか言ってた、アイツを」


 キコリが言えば、シャルシャーンは感心したように拍手をする。まあ、心がこもっていないのは明白だったが。


「ははは、どうして分かったんだい?」

「アンタはあの場にいた。その気になればトルケイシャを殺せたはずだ」

「うん、楽勝だね。あんな偽ドラゴン、一秒かからず骨粉に加工できる。ふふ、なるほど。聞いてみれば単純だ」


 言いながら、シャルシャーンはキコリの肩を叩く。


「そうだ。君があの偽ドラゴンを殺すんだ。その為に必要な戦い方を、君には学んでもらうよ」

「そんな暇が」

「あるのさ。それがあの偽ドラゴンを殺す理由さ」

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