俺はもっと戦える

 ドラゴンもどきの激ヨワ人間。そう言われたキコリは黙り込んで。

 そんなキコリの顔を、妖精が覗き込む。


「どしたの? 泣いちゃった?」

「……いや、嬉しいんだ」

「はあー? 何が?」


 訳が分からない、と言う妖精だが、キコリは本当に嬉しいのだ。

 何しろ「才能がない」キコリに武器が出来たのだ。

 ドラゴンもどき。死ににくい。それが事実なら、キコリはもっと戦える。

 魔法を受けても死ににくい。それはバーサークメイルの能力を考えれば、歓迎すべき能力だ。

 相手の魔法を真正面から受けて魔石に魔力を溜めるという作戦を、取りやすくなる。


「俺はもっと戦える。だから嬉しいんだよ」

「ザコが戦えても、戦えるザコなんだけどー?」

「それでいい。その、ドラゴンクラウンだっけ?」

「そうよ。ま、アンタのは劣化版だけどね」

「それ、これから成長するのか?」

「知るわけないじゃん。バカなの?」

「知らないのか」

「アンタさー。ドラゴンに『アンタを最強足らしめてる力について詳しく教えて』とかほざいて、生かして帰してくれると思う?」


 ……ぐうの音も出ない正論過ぎて、キコリは「ごめん」しか言えない。

 しかし謝ってからキコリは「あれ?」と首を傾げてしまう。


「なら、そのドラゴンクラウンとかって単語は何処から出てきたんだ?」

「ドラゴンをじっと観察すれば何となく理解できるじゃない。名前は勝手につけたけど」


 キコリはじっと見ても理解できるとは微塵も思わないし、そんなものは本にも書いていなかった。

 そもそも、ドラゴンを人間がじっと見て生きて帰れるとも思えない。

 そこは妖精がモンスターであるが故……なのだろうか?

 キコリは改めて、目の前の妖精をじっと見てみる。

 桃色のおかっぱ風の髪、同じ色のクリッとした目。

 半透明の羽と、身体を覆う布の服。

 ……それだけだ。見た目以上の情報なんて、じっと見ても分かりはしない。


「な、何よ」

「……いや」


 少し考えてから、キコリはゆっくりと起き上がる。

 無理をしなければ、身体を動かせそうだと思ったのだが……やっぱりだった。

 そうしてキコリはそのまま、妖精に頭を下げる。


「助けてくれてありがとう」


 そう言うと、妖精は戸惑ったような様子を見せた後……少しずつ赤面して真っ赤になる。


「な、なーに言ってんのよ! あたしはただ、面白そうだから持って帰っただけだし! 死なれても腐って臭いだけでしょ!?」

「それでも、ありがとう。俺はキコリ。君は?」


 妖精はしばらく「むー……」と唸った後、仕方なさそうに溜息をつく。


「オルフェ。あたしはオルフェよ」

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