感謝なさいよ

「ていうか、君って。突然何なのよ。さっきまでお前とか言ってたじゃない」

「いや、だって恩人だし」

「気紛れよ、きーまーぐーれー! 人間なんか助ける理由ないし!」

「でも、助けてくれただろ?」


 キコリがそう言うと、オルフェは黙り込んだ後……真面目な表情になる。


「一応言っとくけど、話が出来るから相互理解が出来るとか思わない方がいいわよ」

「え?」

「あたしたち、人間とか大嫌いだもの。イジリドにいきなり殺されかけたこと、忘れたわけでもないでしょ?」


 忘れてはいない。

 けれど、話が出来るなら仲良くなれるのではないかとキコリは思うのだ。

 今まさにキコリがオルフェと話しているように……だ。


「いい? アンタが今生きてるのは、ドラゴンもどきみたいな生物だからよ。アタシたちの基準で『人間』じゃないからなの」

「なんでそんなに人間が嫌いなんだ?」

「生理的に無理だから」

「そうなのか……」

「だから、アンタ他の妖精に人間がどうとか言うんじゃないわよ」

「じゃあ、なんて言えばいいんだよ」

「んー……ドラゴンもどき、偽ドラゴン、ドラ……ドラ……」


 悩むようにフヨフヨと空中を漂っていたオルフェは「ドラゴニアン!」と叫ぶ。


「そうよ。ドラゴニアンって名乗ればいいわ」

「そういうのがいるのか?」

「居ないわよ。だからバレないんじゃない」

「そんなもんかなあ」

「別にいいわよ。人間だとか名乗って殺されても。あたし止めないから」

「あ、嫌とかじゃないんだ。ありがとう」

「フン!」


 妖精の基準で人間じゃないというのは複雑な気分だが、ふとキコリは思い出す。

 そもそも此処に来た目的。妖精に聞けば分かるかもしれないと思ったのだ。


「そういえば、オルフェは迷宮化の理由とか知ってたりするのか?」

「迷宮化? それ人間の命名? たまには気の利いた言葉も考えるのね」

「ああ。元々、俺はそれで来たんだ。他に人間とか……あー……」

「別に殺してないわよ。他の連中は知らないけど。んー……」


 オルフェはちょっと考えて、外へ指を向ける。


「自分で聞いてみればいいじゃない。そろそろ立てるでしょ?」

「ん? ああ」


 キコリはゆっくりと立ち上がり、身体のあちこちを動かしてみる。

 まだ無理は出来そうにないが、動くだけなら何も問題はない。

 とはいえ……だ。


「さっきまであった痛みがほとんど消えてるような……?」

「ソレもドラゴンクラウンの力ってことじゃないのー? ドラゴンって首1つになっても、首が無くなっても動くっていうし。筋肉がどうこうって問題くらい一撃でしょ」

「……そういえば傷がないな」

「あたしが治したのよ。感謝なさいよ」

「ああ、ありがとう。本当に助かった」

「……フン」

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