たぶんどっかでズレたんだ

 それからどれだけの時間がたったのだろう。

 キコリが目覚めると、あのキコリを持って帰ろうと主張していた妖精がキコリをじっと見ていた。


「あ、起きた!」

「お前は……ぐっ……!」

「動かない方がいいよー? 3日寝てたし」


 身体が上手く動かせない。それを感じたキコリはそのまま動かないことにしたが……何やら布の塊のようなものが乗せられている気がする。


「寝てる間に色々見たけどさー、アンタ、ほんとに人間?」

「どういう意味だよ」

「どういう意味も何も。人間って普通、そういう魔力の使い方しないし」

「……訳が分からん」


 魔力の使い方などというが、キコリに使えるのは「ブレイク」と「ミョルニル」だけだ。

 どちらも過去の英雄だとかが作った魔法だし、多用しているミョルニルもアリアに教えてもらったものだ。

 チャージにしたって鎧の機能であってキコリに由来するものではない。


「そっかー、無自覚かー」

「遠回しに言うなよ。俺は、そんなに頭が良くないんだ」

「そう? じゃ言うけどねー。アンタの魔力の流れ、あんまり人間っぽくない」

「……は?」


 人間じゃなければなんだというのか。

 まさか今更悪魔憑きがどうのという話でもないだろう。それは否定されている。


「どっちかというと、ドラゴンに似てる。勿論、魔力規模はぜーんぜん違うけど。あたしが見た人間と比べてもザコっぽいし」

「そりゃザコだけど……ていうかドラゴンと俺の何処が似てるんだよ」

「だってアンタ、魔力が自然に身体流れてるでしょ? そんな運用するの、ドラゴンくらいよ?」

「……は?」


 何を言っているのか。確か、クーンは。


「いや、待てよ。これは魔力で身体強化するのを身体が覚えたってやつで」

「バーカ。イジリドの電撃喰らって焦げない時点で気付かなかったの?」

「俺の鎧は魔力を吸うんだ。だから」

「ちょっと魔力を吸ったくらいで身体が焦げるの防げるわけないでしょバカ。イジリドの電撃はそんなに弱くないわよ」

「……なら、なんだってんだ」

「身体強化とかいうチャチなもんじゃないわよ。それはドラゴンクラウン。ドラゴンがドラゴンたる証……あらゆる環境に適応する為の魔力運用よ」

 ドラゴン。

 それについてはキコリも本で読んだ。

 あらゆる環境に適応した、史上最強の生物にしてモンスター。

 ドラゴンに住めぬ場所はなく、それ故に弱点など存在しない。

 マグマを汚れ落としの風呂程度にしか思わず、深海の底を煩わしさを防ぐ寝床にしか思わぬという、そんな生物。

 そんなものの運用方法を自分がしているなど、信じられるはずもない。


「まあ、人間だって言い張るならそうなんでしょうね。なら、たぶんどっかでズレたんだ」


 そう言うと、妖精はクスクスと笑う。


「かわいそー、ドラゴンもどきの激ヨワ人間とか。中々死ねなくて苦しむくらいの効果しかないでしょ、それ」

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