これ、持って帰ろうよ

 潜り抜けた、その先。そこは森だった。

 ザワザワと木々の揺れる、森。

 夜だからだろうか、暗い森の中は見通しも悪く、しかしランタンを使うのは躊躇われた。

 何しろ、此処に何が居るか全く分からないのだ。


「……この辺りで戻る、か?」


 キコリはそう判断し、荷物袋から帰還のスクロールを取り出そうとする。

 最初はコボルトの草原。そしてその「先」は森。

 先遣隊の情報は何もないが、ここでまたさっきのような事になれば目も当てられない。

 だからこそ、キコリは戻ろうとして。


「キャ――――――――――――!」


 響いた悲鳴に、荷物袋を開けようとした手が止まる。

 悲鳴。

 それも女性の悲鳴と思わしき声に、キコリの中で判断が揺れる。

 助けに行くのはいい。

 しかし、それはキコリの実力で勝てる相手なのか?

 先遣隊だとして、かなりの実力があったはず。

 そんな人が勝てない相手に、キコリは勝てるのか?

 ドガン、と。何かが炸裂するような音が響いて。

 キコリは全ての判断を投げ捨て走り出していた。

 勝てなくてもいい。せめて、一緒に逃げるくらいの隙を作れれば。

 そう考えて、再度響いた炸裂音の方へとキコリは走る。

 走って……その戦闘跡を、見つけた。


「……なんだ、これ?」


 それは、転がるゴブリンたちの死骸。

 何か強力な魔法で黒焦げにされたと思わしきそれらの上に、何かが浮いている。


「もう、サイアクー。ゴブリンども、身の程ってもんを知らないよね!」

「分かる分かる! すぐ増えるし!」

「でも今回は原因たぶん、アレだよねー」


 状況は全く分からない。

 しかし、先程の悲鳴が助けを求めるものではないことだけは分かった。

 そして……あの羽の生えた小さな人間、おとぎ話の妖精か何かの如きアレ等は、何なのだろうか?

 言葉が分かるということは、モンスターではない……のだろうか。


「あの……」

「ねえ、あの人間どーするー?」

「どうしよっか。人間でしょ?」

「えー、うそー。あれ人間?」


 好き勝手なことを言っていた妖精たちだが、そのうちの1体がキコリに手の平を向ける。


「確かめてみようよ!」


 それは、電撃。

 強烈な電撃がキコリへ放たれ、その身体を蹂躙する。


「ガ、ガアアアアアアアア!?」

「ほらー、やっぱり人間だよ」

「そうだねー」

「あ、でも見てホラ」


 死んではいない。生きている。

 そう、バーサークメイルの魔石が先程の魔法を吸収し、輝きを放っていた。

 だからこそ、かろうじて生きている。

 生きているが……立てない。動けない。


「わー、おもしろーい! ピカピカ光ってる!」 

「なんか面白いね! ねえねえ、もう1回撃ってみようよ!」

「あ、それはちょっと待って?」


 動けなくなったキコリに、妖精のうちの1体が寄ってくる。

 それは、キコリをじっと見て。


「これ、持って帰ろうよ!」


 そんなことを言っているのが聞こえた直後……キコリの意識は、暗転した。

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