ホブコボルト

 斬る、斬る、割る、斬る、斬る。

 襲ってくるコボルトたちを叩き割って、切り裂いて。

 穴から身体を出して矢を射ってくるコボルトたちに片っ端から襲い掛かって。

 ようやく追加が出なくなった中で、キコリは身体に刺さった矢を抜いていく。

 多少乱暴でもいい。ポーションはまだある。


「予想より早く、諦めた、な……」


 よろよろと歩きながら、ポーションの瓶を開けて飲む。

 質の良いポーションはキコリの傷を癒し、塞がっていくのが分かる。

 けれど、それは決して失った血が戻ることを意味はしない。

 体力が回復するわけでもない。

 気力も回復などしない。

 だから、キコリの顔は心なしか青い。


「どうする。戻るか? いや、まだいける。このくらいなら、まだ……」


 せめて、もう1つ先。

 そう考えて、キコリは歩いて。

 ドゴン、と。目の前の地面が砕けて巨体が姿を現す。

 大きさはおよそ2M前後。キコリに比べればずっと巨人だ。

 

「コボルトの上位種……確か、ホブコボルト……」


 実力的にはホブゴブリンより上。頭がよく、戦術をもしっかり理解している。

 それが、此処で出てきたということは。


「ゴオオオオオオオオオオオ!」

「そうか。俺が弱ったって思ってるんだな」


 波状攻撃をかけて、弱った所に大きな戦力の投入。

 なるほど、確かに戦術だ。

 その手に持った大剣も、確実にキコリを斬れる自信の表れなのだろうか。

 けれど、そう、けれども。

 

「間違ってるよ、お前」


 振り下ろされた大剣を、キコリは躱す。

 遅い、と思う。もっと鋭い攻撃は、たくさんあった。

 どれだけキコリが才能がないとしても、こんな程度の攻撃なら。


「……チャージ」


 キコリの鎧の魔石が、1つ輝きを失って。


「ミョルニル」


 キコリのマジックアクスが、電撃を纏う。

 投擲した斧は、慌てたように盾にしたホブコボルトの大剣を叩き割り、そこから電撃を全身に流していく。


「ギガアッ……!?」


 膝をつくホブコボルトは、見た。

 戻っていくマジックアクスを。

 それすら待ちきれないとばかりに走り、マジックアクスをキャッチするキコリを。

 そして、自分に向かってマジックアクスを振りかぶるキコリを。


「死ね」


 ガヅン、と。ホブコボルトの被った安物の兜がヘコみ、頭蓋を陥没させる。

 倒れたホブコボルトに、キコリは油断なく更にマジックアクスを振り下ろしトドメを刺す。

 そうすれば、もうコボルトたちは襲ってくることはなくて。

 キコリはその死体から魔石を取り出すと、ユラリと立ち上がる。

 流石に、もう襲ってくることはないだろう。

 けど、それは希望的観測に過ぎない。

 やはり此処で夜は過ごせない、と。キコリは夜の草原を歩き……その先の空間の歪みを潜った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る