水中用の魔法

 転移したその先は……やはり水の中だった。

 だが、今までいた海底と比べると大分明るい。

 オルフェの魔法のおかげで呼吸も何も問題はない。

 ないが、転移したその瞬間にキコリたちの足元から何かがぐわっと現れる。


「網⁉」


 キコリが即座の判断で叩き切ろうとするが、間に合いそうにない。ならば、と自分たちを囲もうとする網にキコリは触れる。


「ブレイク!」


 強い網ではあったのだろうが、さながら地引網の如き網は瞬時に塵となって消えていく。

 その網を引こうとしていた「元」は……水上。数隻のボートが水面に見えている。


「ロックアロー!」

「アイスアロー!」


 オルフェとフェイムの放った石の矢と氷の矢がボートを貫き、ボートから槍を構えたトロールたちが落ちて……そのまま潜ってくる。

 何かを口に含んでいるようだが、水中で呼吸が出来る類の魔法道具だろうか? 網の件も含め随分と用意がいいが、これまでのことを考えれば何の不思議もない。


「迎え撃つぞ!」

「うむ!」


 とはいえ、流石に水中でミョルニルは使えない。グングニルはキコリが使っても効くかどうか分からない。だからキコリは斧を構えて迎え撃つ態勢に入り……しかし、そこでオルフェがすでに仕掛けていた。


「アクアヴォーテックス」


 水がオルフェの魔力で渦を巻き、ちょうどトロールたちのいる辺りで凄まじい音をたてながらトロールたちを呑み込んでいく。


「ガ、ガアアアアアアアアアアア!? 」

「ギエアアアアアアアアア!」


 水中に在るのであればそこで渦巻く力に抵抗できるはずもない。強い流れにただ翻弄され、吞み込まれるだけだ。

 だからこそトロールたちは魔法の渦に吞み込まれ粉砕されながら消えていく。

 ただの渦ではない攻撃魔法の渦だからこその恐ろしいトロールたちの死に様にキコリたちは思わず「うわあ……」と声をあげてしまう。


「おっそろしいな……」

「ああいう死に方はしたくないな」

「同じ妖精なのに……どうやったらあんな惨い魔法を思いつくんだ」

「アンタらねえ……」


 オルフェに半目で睨まれつつも、キコリは水面へと目を向ける。

 やはり狙ったように襲ってきた。それも此方を一方的になぶれる方法で……だ。


(それに、未来予知にせよ予測にせよ……俺たちが水中から来ると分かっていた。なら、次は……)


「走るぞ」

「了解」

「ああ」

「えっ?」


 フェイムだけが分かっていない風だったが、それでも4人は前へ向かって走る。

 全力で走っていくその背後で、魔力の珠のようなものが幾つも降りてきて爆発を起こす。


「うおおおお!? なんだあ!?」

「水中用の魔法だ! 相手も魔法が得意なんだ、お手のものってことだろ!」

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