モンスター社会にも色々ある

「実力、か。俺もそんなものなかったよ。今でも無茶して補ってるような状況だし」

「それを支えてんのがあたしだって忘れんじゃないわよ」

「忘れてない忘れてない、感謝してる」


 オルフェに睨まれながらキコリは、地面にドドと同じように座り込む。

 今でこそ立派な斧を振るっているが、最初は薪割り用のボロい斧だったのだ。

 オーク1人相手に命懸けだった自分が、今ではオークのドドに「戦いについていけない」と言われるようになっている。それがなんとも、遠くに来てしまったように感じられる。

 そんなキコリとドドは、互いに無言。青い空をただ見上げて……やがて、キコリが「そういえば」と声をあげる。


「妖精女王って、俺は単に称号みたいなもんだと思ってたんだけど、さっきの話を聞くに明らかに姿が違うよな」

「そーね」

「あんまり興味ない感じか?」

「というか、どうでもいいのよねえ」


 妖精女王。確かにユグトレイルから頼まれたことではあるが、オルフェにとっては「知らない所に住んでる知らない人」そのものであるから、凄くどうでもいいのだ。


「そっか。ひょっとしたら会うかもだから今のうちにオルフェに色々聞いておきたかったんだけどな」


 妖精と初対面で殺されかかったのを、キコリは忘れてはいない。

 あの時は「人間」という理由で殺されかけたが、今はそれについては問題ない。

 だからといって安心と思うほどキコリも間抜けではないし、妖精の気まぐれっぷりについてもある程度理解しているつもりだった。

 しかし「妖精女王」の姿が違うというのなら……それこそ妖精の上位種的な存在ではないかと、そんな風に感じたのだ。


「大体想像ついてるだろうけど、妖精の中で時折現れるらしいのよ、そういうのがね」

「ハイオークのようなものか」

「細かい所突っ込むと面倒だから言わないけど、まあそんな感じね」


 ドドにもそう答えながら、オルフェはめんどくさそうな表情になっていく。


「あたしは正直会いたくないのよねえ……凄い面倒そうだし」

「まあ、同じ妖精でも知らない人だもんなあ」

「そういうこと。ドドがあっちの連中と話が合わなかったのと同じよ」


 そう言われると、キコリもドドも納得してしまう。

 あの村のオークたちも川の反対側から此方を見ているが……微妙に敵意が混ざった視線を向けられている。

 襲ってくるまではなさそうだが、仲良く出来そうにはない。


「何処に行っても、世知辛いのからは逃れられないんだなあ……」


 キコリは溜息をつきながら、その場に倒れこむ。

 人間ほどではないにせよ、モンスター社会にも色々ある。それを強く実感してしまったのだ。

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