だからこそ思う
迷宮化が一段階進んだ、とシャルシャーンは言った。
ダンジョンの生態系に歪なものが混ざり、デモンが現れるようになった。
デモンは何処にでも現れるが、それでも多少安全な場所というものは存在する。
たとえば此処のようなオークが長く制圧しているような場所であれば「オークより強い」デモンが現れる確率は非常に低い。
そして現状それは、キコリたちにとってはある程度の安全な場所という指標になる。
だからこそ、オークの村から少し離れた、具体的には川の反対側でキコリたちは休息をとることにしていた。
何処に行けば安全か、などというのが測れない現状、それなりに安全度のある場所で休息をとるのは当然であり……ついでに食糧になるものを補給するにも丁度よかった。
ドドが川に入って魚を熊か何かのように獲っている中、キコリは今のタイミングでしか出来ない洗い物をしている。
オルフェは暇そうにフワフワ浮いているが……やがてドドが魚の下処理を終え干す段階に入った時点で「そういえば」と声をあげる。
「さっきの話って……やっぱりアレよね」
「ああ、俺もそうだと思ってた」
「すまない。ドドには何の話か分からない」
「ああ、そっか。そうだよな」
キコリがユグトレイルに頼まれたことを簡潔に話していけば、ドドは頭痛をこらえるように額に手をあてる。
「そ、そうか。守護のユグトレイル……またドラゴンか。いや、キコリがどうと言っているわけでもないしドラゴンに思うところがあるわけでもない。だが、正直ドドの理解を超えすぎて麻痺してきた」
「あー、それは分かるわ。元人間だったのが、いつの間にかこうだもの」
2人の言いようにキコリは苦笑するが、言っていることは分かるので何も言わない。
キコリだって、防衛都市に辿り着いた頃の自分と比べれば冗談のように変わった。
「普通、ドラゴンに一生の内に何度も出会う事は無い。出会えばほぼ死ぬからだ」
ドドは魚を干し終えると座り込み、空を見上げる。
「ドドたちは僅かな伝承からドラゴンには出会うなと教わる。それ程までに絶望的で、恐ろしい存在だからだ」
なのに、とドドは小さく笑う。なのに、気が付けば「不在のシャルシャーン」と出会い、ドラゴンもどきと戦い、挙句の果てにはドラゴン……最近「死王のキコリ」の名を授かったというキコリと共に居る。正直に言って今生きているのが不思議なくらいではある。だからこそ離脱を決意したのだが。
「この体験をどのオークに言っても信じまい。ククッ……楽しい、実に楽しい。だからこそ思う。ドドにもう少し実力があれば……とな」
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