あの木偶の身体は壊せても

 だが、キコリは倒れていない。悪魔の鎧が、光の柱を弾いていたからだ。

 それでも圧力はあり、キコリはたたらを踏みつつも砂の中から盛り上がるようにして現れたものへと斧を振るう。そして……透明なバリアのようなものに弾かれた。

 その中で、ドラゴンの骨のような頭部はそのままに、人間サイズに……そして人型に骨が組み上がっていく。最期に、その身体をローブが覆って。暗い眼窩に光が宿る。


「その鎧、前に見たものと違うな。魔法を弾く金属……脅威だ」

「だろうな! ミョルニル!」


 キコリの電撃纏う斧がトルケイシャのバリアとぶつかりあい、ガラスを砕くようにして破壊する。


「だが、把握した」


 トルケイシャから放たれた魔力波動が色濃くなり、キコリを押し潰すように四方八方から襲い掛かる。


「ぐっ……!」


 悪魔の鎧はそれを弾き……しかし、弾き切れずに砕け散って、キコリはその一瞬に転がるようにして逃れる。

 その姿をトルケイシャは愉悦を籠めた目で見て……しかし次の瞬間、その頭部が背後から襲い掛かったドドのメイスで思い切り殴られる。

 キコリに集中していたが故にドドを忘れ、壊れたバリアも再度張っていなかったのだろう……その油断をドドは突き、キコリはその油断を誘った。

 ……だが。オークの膂力をもってして尚、トルケイシャの頭部は砕けない。


「……やってくれる」

「ぐおっ!」


 驚くべきことにトルケイシャの骨の拳はドドを殴りつけ、吹き飛ばす。

 何処からその力が来るのか、答えは決まっている。その小さな体に魔力を集め、自身の強化に使っているのだ。

 だから、オルフェが牽制で放った火の矢もその正面で弾けるだけで全く傷がつかない。


「ハハハハハ! 分かるだろう!? この程度の身体であれば私は十全以上に戦える! だが、それでは意味がない! この小さな身体には畏怖がない! 見るだけで相手を屈服させる強大にして巨大なドラゴンの身体が私には必要なのだ! 分かるだろう、私には……すでにその資格がある!」

「分かんないな」


 キコリがトルケイシャの顔面に、その手を添える。そして、唱える。


「ブレイク!」


 そして、トルケイシャの身体は崩れ……ない。驚愕に目を見開くキコリの眼前で、トルケイシャが嗤う。


「クッ、クフフフフフ! その魔法は脅威だ。しかし、気付かなかったのか? 君のその魔法は、私のあの木偶の身体は壊せても『私自身』は破壊できなかったと!」


 キコリの破壊魔法ブレイクは、自分と相手の魔力差で効果が増減する。

 さっきも今も、多少無茶をする程度には魔力を籠めて放っている。

 そしてそれでは、全く通じなかった。つまり……トルケイシャの魔力総量は、ブレイクではキコリが命を引き換えにする覚悟でチャージして、それで通じるか否かという程ということになる。


「なら、これはどう?」

「ぬっ!?」


 トルケイシャが自分の力に酔う、その時間で……完成した魔法が、1つ。


「フェアリーケイン」

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