次に会ったら

「そりゃ賛成だけど。さっきまで渋ってたのにどうしたの?」

「簡単だよ。この穴だ」


 キコリの示す抜け穴に、オルフェは首を傾げる。


「これが何だってのよ」

「アイツ、最初から追われる可能性を考慮してたんだよ」

「そうね?」

「で、たぶんだけど。仲間を見捨てて逃げるつもりだったんじゃないか?」


 まあ、仲間意識があったようにも思えないが……少なくとも戦い方を教えたのだ。

 その上で仲間に不満があった……本人曰く「適当に扱われていた」のだから、わざわざ抜け道を共有するとも思えない。事実、こうして荷物で抜け穴を隠していた形跡がある。


「いや、でもそのくらいじゃ……」

「こっちに手札を隠した上で逃げた。今考えると、最初にこん棒を持ったのもブラフなんだと思う。自分は大したことが出来ないって思わせたんだ」

「他に何か……あっ」


 オルフェが思い出したのは、風の魔法を籠めた矢を使ったゴブリンだ。

 アレも、さっきのゴブリンが教えたのならば。


「アイツ、普通に魔法も使えるってこと!?」

「たぶんな。下手するとこの穴も魔法じゃないか?」

「……確かに魔力の残滓を感じるわね」


 つまり、さっきのゴブリンはやろうと思えば魔法で戦う力を持っていた。

 それをやらなかったのは、単純に不利だと判断したからだろう。

 恐らくは「敵対する気がなかったから」ではない。その可能性は逃げたことで消えた。


「オルフェはともかく、俺は殺そうとなんてしてなかった。それでも逃げた。つまり……アイツの中で俺は敵に分類されてたんだよ」


 積極的に戦う意思を見せなかったのは、こちらに攻撃する理由を与えない為。

 友好的なゴブリンと思わせたまま、情報を与えずに逃げ切る為のものだ。

 言葉の魔法については、すでに知られているのと……こちらを信用させる為だろう。

 恐らく……だが、こちらに勝てると確信するまでは逃げ回る可能性もある。


「……失敗したな。アイツ、逃がしちゃダメなタイプの奴だった」

「だから殺しときゃよかったのよ」

「そうだな。オルフェの言う通りだ……ごめんな」

「別にいいわよ」


 キコリが止めるのはオルフェにも簡単に想像がついたことだ。

 それでもいいと思っていたし、その程度のザコだとも思っていた。

 それはオルフェの判断ミスでもある。


「ま、切り替えていきましょ。悩んでも仕方ないわ」

「……だな」


 妖精たちからの依頼が未解決になってしまったが……そこは謝るしかないだろうな、などとキコリは思う。

 だが、次に会ったら殺す。それだけはキコリの中で確定していた。

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