頭いいぞ、アイツ
「誰とでも話せるってことか……何かの魔法か?」
「うーん……」
オルフェはゴブリンをじっと見ると「何か話してみなさい」と促す。
「な、何か」
「ブッ殺すわよ?」
「ひえっ」
ガタガタ震えるゴブリンを見ながら、オルフェは小さく息を吐く。
「……たぶん魔法の一種ね。声に微弱な魔力が混ざってる。どういう仕組みかまでは知らないけど」
「単純にゴブリン語が相手の言語になる魔法じゃないのか?」
「単純じゃねーわよ馬鹿。理解できる部分だけで考えても結構とんでもない魔法よ」
「そうなのか?」
「こいつは1つの言語しか理解してないのよ? なのに、全く違う言語と意思疎通出来てる。でもこっちに干渉してるわけじゃなくて、あくまでこいつ1人で完結してる。理解できないわ」
もし相手に干渉するタイプの魔法だったら、オルフェは気付いている。しかしその気配は一切ない。だからこそゴブリンがほぼ無自覚に発動させている魔法の高度さが理解できるが……まあ、その辺りはどうでもいいことだ。
「ごめん、分からん」
「でしょうね。まあ、なんか凄い魔法使ってんのよ」
「なるほどな。でもそうなると……やっぱり異常進化体ってことか」
「そうなるわね」
「へ、へへっ」
先程から視線の合わないゴブリンをじっと見ながら、キコリは考える。
誰とでも会話できるゴブリン。まあ、意思疎通が出来る……ということだが。
こちらと積極的に戦う意思はないように見えるし、わざわざ倒す必要はない、のだろうか?
しかし……そう判断する前に、確かめなければいけないことがある。
「1つ聞きたいんだけど、いいか?」
「へへっ、どうぞどうぞ」
「さっき、戦い方を誰かから学んだ風のゴブリンに会ったんだけど……仲間だったりするか?」
「へ!? いやいや、俺っちはそんな物騒なもんはとてもとても!」
ゴブリンはキョロキョロと視線を動かしながら後ずさって。
「別に責めてない。ただ、何処でそういうのを学んだのか知りたかったんだ」
「ああ、そういう! ちょ、ちょっと待ってくだせえ」
ゴブリンはそのままテントへと走っていって……ガサゴソとテントの中から音が聞こえてくる。
まさか本だろうか? 「天才」関連の本とか出てきたらどうしようとキコリは考えるが……いつまでたってもゴブリンが戻ってこない。
「……」
「……まさか」
キコリとオルフェはテントに近づくと、布を捲って。乱雑にガラクタの置かれた場所の奥に、穴が開いているのを発見する。
「抜け穴……! あのゴブリン!」
「こりゃやられたな。頭いいぞ、アイツ」
「言ってる場合!?」
「場合だよ。このサイズの穴じゃ俺は追えないし」
何処まで行ったか分からないが、適当な場所で抜け出して逃げているだろう。
「まさかグングニルで周囲を吹っ飛ばすわけにもいかないしな……」
しかし、同時に分かったこともある。それはキコリの中での分類の決め手でもあった。
「アイツは敵だ。次会ったら問答無用で殺そう」
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