めんどくさそうだし殺そ?
(ドングリ……? 食べるのか?)
見たところ、鍋は火にかけられているわけでもない。
今調理を始めたばかり……というところなのかもしれない。
「ちょっと、何やってんのよ」
「いや、もう少し……」
何をやっているのか。それが分かれば「オドオドしたゴブリン」の正体を探れるかもしれない。
そう考えたキコリはオルフェをなだめながら、隠れてゴブリンの様子をうかがう。
火をおこす様子もなく鍋の中を見ていたゴブリンは、やがて幾つかのドングリをポイ捨てし始める。
どうやらドングリの選定をしていたようだが……何やら「ケッケッケ」と笑っているのが聞こえてくる。
「アイツ等、俺を適当に扱いやがって……こんな真似もできねえくせによ」
その「声」を聞いてキコリとオルフェはギョッとする。
(喋った……!?)
ゴブリンが喋るのは独自の言語であり、人間の使う共通語ではない。
オルフェや妖精が共通語を理解するのは「覚えた」からだが……ゴブリンが共通語で喋っているのは、流石に驚きが過ぎる。
しかし、しかしだ。たとえ前世持ちだとして「共通語」を喋れるかといえば話は別だろう。
と、なると共通語を覚えるくらいの頭の良いゴブリンという可能性はある。
ならば、とキコリは踏み出しワザと足音を立てる。
「!? に、人間……と妖精!?」
鍋を見ていたゴブリンは振り返り、慌てたように近くのこん棒を持ち立ち上がる。
「ち、畜生! 殺られやしねえぞ! か、かかってこい!」
「だってさ。めんどくさそうだし殺そ?」
「ヒイー!」
ゴブリンはキコリたちでも分かる程に脅えた表情を見せると、こん棒を投げ捨てその場に平伏する。
「待った! 待ってください! 俺っちは悪いゴブリンじゃねえんです! 単純に住処を求めて流れて来ただけの哀れなゴブリンなんです!」
「共通語をそんだけペラペラ喋るゴブリンとか生かしてもロクなことになりそうにないし」
「いやいや、待って! 待ってくださいってば! 俺はお役にたてる奴ですってば!」
「オルフェ、ちょっと待ってあげよう」
キコリが今にも魔法を放ちそうなオルフェを押さえると、ゴブリンは卑屈な笑みで「ふへへ……」と笑う。
「さ、流石です旦那。よっ、色男! まあ、人間の美醜とか分かんねえんですが」
「やっぱキモいわよこいつ。殺した方がいいわよ」
「まあまあ。えーと……色々聞きたいけど、とりあえず。なんでそんなに共通語が上手なんだ?」
「その共通語とやらはわかんねーんですが……俺っち、生まれた時から誰とでも会話が出来たんですよ」
今も他のゴブリンと話してるのと同じように喋ってますぜ、と。そのゴブリンは、何でもない事のようにそう言ったのだ。
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