だから問題なのだ
キコリとオルフェの帰還。
グレートワイバーンの討伐。
そしてワイバーンの居た領域の掃討。
これ等の情報は、防衛伯に「は?」と言わせるに至った。あまりにも仕方がないと言えるだろう。
グレートワイバーンのものとしか思えない魔石が提出されてもなお、信じきれない情報。
大急ぎで編成された調査団は元妖精の森を抜け、確かに「ワイバーン渓谷」と名付けられたその場所のあちこちにワイバーンの死骸があることを確認した。
その全てを掃討したわけではないようで、奥まで行き過ぎた冒険者が襲われる事案もあったが……それを含めても、キコリの功績が広く知られるようになった。
だが、それは同時に……とある問題をも生み出した。
「君の問題ではない、ということは最初に言っておこう」
「えっと、はい」
以前セイムズ防衛伯から言われていた招待状を持ってキコリが屋敷に行った時……言われたのは、そんな一言だ。
フカフカのソファと、高級そうなお茶と茶菓子。
やはり高そうな調度品が並んだ執務室で座っているセイムズ防衛伯は、如何にも疲れたような様子だった。
「最近噂になっているから知っていると思うが……冒険者の未帰還率が激増している」
「はい、俺も聞きました。それも確か、新人の死亡率が高いって」
「その通りだ」
そう、キコリと同程度、あるいはもっと経験の浅い者達。
そんな冒険者の未帰還率が上がっているのだという。
それは……キコリの胸元で輝く銀色のペンダントと、セイムズ防衛伯のペンダント。
その2つがもたらした効果であるとも言えるだろう。
「ゴブリンジェネラルにグレートワイバーンとワイバーンの群れの討伐。妖精との友誼……君の功績は大きい。新人というよりはエースと言って差し支えない程だ」
「あ、ありがとうございます」
「うむ。君が一気に銀級となったのも、当然と言える。言えるが……世の中には、それが特別だと分からない者も多い」
「キコリに出来たなら俺も私もって? そんなバカ、死んでいいんじゃないのー?」
キコリの頭に乗っていたオルフェがつまらなそうに言うが、セイムズ防衛伯は僅かに苦笑する。
「そうはいかん。汚染領域に対する防衛都市の役割は、少なくとも私の代では終わらんほどの長きに渡るものだ。次の世代を担う若者の死亡率が高いというのは、捨て置けない問題だ」
「バカは次の世代なんか担えないでしょ。弱いバカはすぐ死ぬけど、強いバカは後で死ぬ。それだけじゃない?」
「おい、オルフェ……」
「いや、いい。一々もっともだとも」
ソファに深く腰掛け……セイムズ防衛伯は「だから問題なのだ」と言い放つ。
「しかし、その弱いバカを強いバカ程度には育てねばならん。それが私の仕事なのだ」
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