前置きが長いのよ
キコリはその言葉に頷くが、オルフェは「ハッ」とあからさまに嘲笑う。
「前置きが長いのよ。で? 何をさせようと企んでんのよ」
「だからオルフェ……」
「アンタは黙ってなさい」
頭をぺしっと叩かれるキコリだが、相手は防衛都市で一番の権力者だ。
敵に回しても何一つとして良い事はない。
だが、オルフェにはどうもそういうのは一切関係ないらしい。
「黙って聞いてりゃ『君は悪くないんだけど君のせいで困っちゃうな―』的な事をグダグダ遠回しに。さっさと用件言いなさいよ」
「フフ、それはすまない。しかしね、私はそこのキコリ君に嫌われたくはない。だから前置きは重要になるんだよ」
「あたしは前置きとか大嫌い。あたしに嫌われたくなかったらさっさと言いなさい」
「ふむ……」
防衛伯は顎を撫でると、黙って立っていた執事に目配せする。
その執事がキコリの前に差し出してきたのは……封蝋付きの書状だった。
「これは……?」
「防衛都市イルヘイルの防衛伯宛の紹介状になる」
その言葉に、キコリは目を見開く。
それがどういう意味か、すぐに分かったからだ。
「追放……ってこと、ですか?」
「違う。うむ、やはり順を追って説明しよう」
キコリによるグレートワイバーン討伐。
それは凄まじく反響の大きい出来事だったが……それは防衛都市ニールゲンだけに留まらない。
グレートワイバーンとワイバーンの群れを倒すほどの新人。
その話は誇張も含みながら、他の都市へも広まっていたのだ。
「今後、君に様々な話が届くはずだ。貴族や商人の私兵を含む、様々な道が示されるだろう」
「……」
「その中には当然、あまり良くない類の誘いも含まれるが……そういったものを追い払うにも多少時間はかかる」
「へえ、追い払うんだ」
「追い払うとも。私はこれでも陛下から防衛都市の死守を任されている身でね。未来ある若者をくだらん馬鹿に取られましたなどと報告したくはない」
オルフェに応えながら、セイムズ防衛伯は憂鬱そうに……本当に憂鬱そうに溜息をつく。
もしかすると、もう内々に色々な話が来ているのかもしれないとキコリは想像する。
「そうなりますと、この紹介状は……身を隠せ、ということですか?」
「少し違う。この都市を離れてもらうのは確かだが、イルヘイルでの問題を解決してほしいという希望でもある」
「問題、ですか?」
「うむ。イルヘイルは獣王国サーベイン側の防衛都市だが……迷宮化の影響が他の防衛都市よりも大きく、冒険者の損耗も大きい。だから、君には両国の友好の懸け橋にもなってもらいたいと考えている」
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