無いよりはマシか

 そしてキコリとアイアースは、廃墟の町を歩き始めた。

 此処でかつて暮らしていた人々はどんな暮らしをしていたのか?

 キコリたちのいた世界と似ているように見えて、やはり違うのだと感じさせられる部分はたくさんある。その最たるものは、文字だろう。


「言葉は通じたのに文字は読めないな」

「確かにな」


 恐らく店構えからすると何らかの店だったのだろうが、具体的に何の店であるかはサッパリ分からない。

 閉じられたドアには鍵もかかっておらず、開けて中に入れば放置された建物特有の埃っぽさがある。

 そして1階には広い空間と棚、そして奥のカウンター。道具屋か薬屋か、それとも雑貨店か。

 棚に残された瓶を見るに、薬屋だった可能性もある。


「この瓶、何か入ってるな」

「おいおい、そんなもん触んなよ。薬にしろ毒にしろ、こんなとこで放置されてたもんだぞ」

「そりゃそうだ」


 此処がいつこうなったのかは分からないが、体内に入れる品がマトモに品質管理されている状況下に無い。そんな恐ろしいものを使えるはずもない。だからキコリたちは早々に薬屋を出て、隣の店に入る。すると……キコリは思わず「おっ」と声を上げてしまう。


「此処は……武器屋だな」

「ふーん」


 並べられた武器は何製かまでは分からないが特に錆びている様子もない。実用に耐えうる強度は持っているだろう、少なくとも石よりはずっとマシなはずだ。アイアースなどは、早速やりを壁から取り外している。


「ふーん……まあ、無いよりはマシか。おい、お前もさっさと選べ」

「ああ、俺は……どれにするかな」


 剣は無しだ。先程借りた剣も、いまいち扱いきれる気がしなかった。一番此処にも種類があるだけに、扱えない自分を多少悔しくも思うが、そこはもう仕方がない。

 やはり、使うべきは斧だ。とはいえ……斧はあまり種類がない。

 手投げ斧もあるが、メイン武器にはならない。といっても大仰すぎる装飾のついた斧もどうだろうか?


「うーん……武器なんか選ぶのは久々すぎて分からない。チャージ機能付きのはないのか……?」

「ねえよ。見りゃ分かんだろ、此処に魔石付きの武器なんざ1個もねえだろうがよ」

「見て分かるのか?」

「お前、本当に魔法方面に才能ねえんだな……」


 言いながら、アイアースは壁にかかった立派な宝石のついた剣を軽く叩く。


「たとえばこの剣も、ついてんのはただの宝石だ。さっきの連中みたいなのが持っていったってんでもなけりゃ、考えられるのは……」

「この世界には、魔石がない」

「そういうことだ。さっきのレルヴァとかいう連中が魔石を落とさなかったのも、これで納得がいくな」

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