準備は整った

 確かに元の世界ではゴーストだって倒せば魔石を落とした。

 しかし世界が違えばそんなものがないことだって当然あるだろう。

 モンスター自体の仕組みが全く違うということだが、まあそれについては別にいい。


「まあ、つまり……此処では魔法の武器が必要な敵は出なかったってわけだ」

「そうなるな。魔法は存在するが魔法の武器がない。そんな状況が存在する理由はそれしかねえ」

「朗報だ。魔法を節約できる」


 キコリはそう言って笑うと、適当な斧を掴んで軽く振るう。

 どれでも同じなら、使いやすいものがいいに決まっている。

 だから、武器は今手に取ったこの斧でいい。あとは……必要なのは鎧だろうか?

 竜鱗の鎧を満足に使えるだけの魔力がない以上、それも此処で調達するしかない。


「こういうのは似たような場所にあるもんだ。アイアース、次に行こう」

「おう」


 そうして隣の店……防具店で鎧や兜を調達すると、キコリたちの一通りの装備が整う。

 勿論、本来の装備と比べ物にならないほど低性能ではあるが……それでも、ないよりはマシだ。


「ハハ、思い出すな。初めて武器や防具を買ったときのことをさ」

「まあ、今回は金なんざ払ってねえがな」

「持ってもいないけどな」


 どのみち、此処で朽ちていくだけのものだ。有効活用したところで誰も怒りはしないだろうが。

 そもそもこの世界で今、貨幣経済が正常に機能しているかも不明だ。


「とにかく、これで準備は整ったってわけだ。次は神殿か?」

「ああ、探そう。きっと何処かにあるはずだ」


 この世界にも神がいるのであれば、それを祀る神殿も当然あるはずだ。

 町の何処にあるかまでは分からないが、装備が整った今であればレルヴァが出てきてもさっきまでよりは戦える。

 再び歩き始めた廃墟の町は、そうして余裕が出てくると今までとは違う顔が見えてくる。


「……もしかしてだけど、この町。結構大きいな?」

「フレインの街と比べてんなら、その通りだな。ま、廃墟になっちまえば何の関係もないが」


 そう、この町はかなり大きい。武器屋だけでもすでに3軒は見ているし、宿屋らしきものも何軒もある。町の中央には城らしきものも見えるのを考えるに、少なくともこの世界の王族は住んでいたように思える。まさか王都だった……などというオチではないだろうが、かなり重要な都市だったのではないだろうかと、キコリはそんなことを思う。


「アイアース」

「ああ」


 空に集まっていく、黒い靄のようなもの。

 キコリたちが武器を構え見上げる先で、それはどんどんと集まって。


「あ、やべえな」

「逃げるか」


 逃げ出したキコリたちを追うように、無数のレルヴァが顕現し一斉に魔法を解き放った。

 

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