その『本質』
「意味って。俺もそう名付けられただけなんだが」
誰に、と聞かれればシャルシャーンにであり、キコリ自身はオルフェから教えてもらったのだが。
「確か意味は……『無数の死を積み上げ、自らも常に生と死の境にて彷徨うもの』だったか? 俺らしいとは思うよ」
「キコリ。お前、そんな名前だったのかよ」
「え、言わなかったか?」
「覚えてねぇから、たぶん聞いてねぇんだろ」
アイアースがそう口を挟んで空気が緩むが、ミレイヌはキコリを虚ろな目で見つめたままだ。
「……ドラゴンの名前とは、その『本質』を現しているという」
「本質?」
「たとえば有名な『海嘯のアイアース』。気に入らないものを一切合切押し流す破壊の権化」
「合ってんな」
爆炎のヴォルカニオン。出会うもの全てを爆炎にて焼き焦がす焦土の王。
守護のユグトレイル。庇護と排除の行動原理を併せ持つ絶対の守護者。
不在のシャルシャーン。何処にでもいて何処にもいない永遠の不在者。
「有名どころであれば、それぞれの名前にはこのような意味が込められているとされる」
確かにそれはキコリも納得できるところだ。まあ、ヴォルカニオンはもっと優しいドラゴンであるようにキコリには思えるのだが。キコリは焼き尽くされていないし助言も貰っている。
「『無数の死を積み上げ、自らも常に生と死の境にて彷徨うもの』だと? それは『王』を現してはいないだろう」
「……言われてみるとそう、か?」
「積み重ねた死を玉座に例えたんでしょうよ。悪趣味だとは思うけど、一応『王』じゃないの?」
オルフェはそうミレイヌに返しながら、あの時のシャルシャーンの言葉を思い返す。
確か……あの時シャルシャーンはこう言っていた。
キコリ! 君の本質たるそのエゴは、自分か敵に死を迫るだろう! そうして積み上げた死の上に君は立ち、それでも君はその姿を捨てないのだろう! こうして自分の死を間近にして、それでもだ!
(……思い出したらムカついてきたわね)
無数の死を積み上げ、自らも常に生と死の境にて彷徨うもの。それは確かにキコリの本質をついているように見える。
しかし、こうも思うのだ。あの時シャルシャーンは何か違う意味を混ぜたのではないだろうか?
そしてそれを、その飄々とした雰囲気と言葉で誤魔化した。そう考えてしまうのは……考えすぎ、だろうか?
たとえそうだとして。それでも、オルフェの何かが変わるわけではないのだが。
「キコリ。もういいわよ。此処にいる意味もあまりないわ。アンタの旅の目的に合致するとも思えない……次に行きましょ」
だから、オルフェはそう話を終わらせようとして。
「……創土のドンドリウスの協力を仰ぎたいのだ」
ミレイヌの語ったその言葉に、舌打ちしながらも止まらざるを得なかった。
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