やっぱ似てないんだ
ジオフェルドが兜やグリーブなどを調べる為に何処かに行ってしまったので、キコリ達は折角なので神殿の中を見学させてもらうことにしていた。
白い石で作られた神殿は荘厳な雰囲気を放ち、隅から隅まできれいに掃除されている。
今この瞬間も掃除夫達が拭き掃除に精を出しており、かなり気を遣っていることが伺える。
「神殿、ねえ」
「合祀だって聞いてるけどな」
確かジオフェルドが次期神官長……らしいが、それはイルナーク限定ではあるが……竜神を信仰する竜神官の長、ということだ。
ほぼ全ての神を合祀しているという神殿の中には各派の執務室のようなものもあり、かなり入り組んでいる。
立て看板に今後の予定などが書かれているのを見ると、互いに譲り合いながら上手くやっているように見える……が、それなら町中はどうして「ああ」なのか。
神殿を奥へ、奥へと進むと……そこには無数の神像が並ぶ聖堂だった。
恐らくは様々な神を現しているのであろう神像は、しかしキコリにはどれがどれだかサッパリ分からない。
唯一理解できるのは……というか、明らかに「そう」見えるのは竜神の神像だった。
オルフェも同じだったのだろう、その神像を見上げて「うーん」と唸る。
「これが竜神?」
「ってことなんだろうなあ」
「あー……やっぱ似てないんだ」
キコリの会った「竜神ファルケロス」は、もっと人間に近い姿をしていた。
少なくともこんな、ドラゴン顔もしていなければ鱗が生えても居なかった。
「まあ、人間が想像で作ったやつだもんねえ」
「たぶんそういうことだとは思うけど、な」
「何よ、含みがあるわね」
「いや、相手は神様だろ? 会う度に姿が変わっていても驚かないなって」
キコリが竜神ファルケロスに会えたくらいなのだ。
過去に竜神を含む他の神と会った人間が居ないと考えるのは傲慢が過ぎる。
その時の姿を元にこういう神像が作られたとして……そう考えると、想像のつくことは幾つかある。
「たぶんあそこの狼っぽい顔してるのが月神で、あっちの髭のお爺さんが大神……なんだろうな」
「あ、そういうこと?」
「ああ」
月神は獣人に信仰者が多いし、大神は普人に信仰者が多い。
そして竜神は獣人の蜥蜴人に信仰者が多い。
ならば……それに合わせた姿をしていたとしても、何もおかしくはない。
キコリ自身、あの時竜神が如何にもドラゴンな姿をしていたら、冷静に話を聞けたかどうかは怪しいものだ。
「相手に合わせて話をする、っていうけどさ。神様なら姿だって合わせられるよな」
「そう聞くと急になんかアレだけど。ま、同意するわ」
しかしまあ、何はともあれ今のキコリがいるのは竜神のおかげだ。
いや、「前の自分」の記憶がうっすらでも存在している以上、それを成した神もこの中にいるのだろうか……?
口ぶりからすると、竜神ではない気もする。
そうなると大神なのだろうか? 「前の自分」の知識も……正直ほとんど役に立ってはいない気がするし、それが全ての元凶という気がしないでもないが。
それでも「前の自分」があって「今の自分」があるというのであれば、それ自体が感謝すべきことではあるのだろう。
そのおかげでオルフェにも、アリアにも出会えたのだから。
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