俺は、才能が無いからな

 同族の無惨な死を前に、もう1体のストゥムカイトがキコリから離れていく。

 たぶん攻撃は当たらない……そう感じながらも、キコリは斧を作り出しミョルニルを発動させる。

 投げた斧はやはり凄まじい軌道で回避され、その隙を狙うように地中から蛇モンスターが飛び出してくる。

 真っすぐにキコリを狙い口を開ける蛇モンスターに、キコリは魔力を存分に流し込んだ斧を向ける。

 蛇モンスターは、キコリに向かって大きく口を開いて向かってくる。

 通じなかった斧を振るっているのだ。愚かとでも思っているのだろうか。

 何も考えていなかったとしても……キコリを脅威と考えてはいないだろう。

 だが、それは文字通りに命取りだ。


「死ね」


 ズドン、と。キコリの斧が蛇モンスターに叩きつけられ、あっさりとその身体を切り裂く。


「キキイイイイイイイイ⁉」


 甲高い悲鳴をあげる蛇モンスターを切り裂きながら、キコリは地面へと落下していく。

 そう、蛇モンスターの巨体そのもので落下の速度を減衰させながら落ちていく。

 そうして地面に落ちると、キコリは蛇モンスターの巨体に触れ「ブレイク」と唱える。

 ただそれだけで、蛇モンスターの巨体は砂と化す。

 そのまま空へ睨みつければ、残ったストゥムカイトたちは我先に逃げていく。

 ああなってはたまらない。そう考えたのかもしれないが……その逃げっぷりは、凄まじいものだった。


「ふー……」


 そして、それを為したキコリにオルフェたちが駆け寄ってくるが、キコリは血を流すこともなく気絶することもなく、けれど多少の疲労を感じていた。

 竜化など、とっくに解除している。それでも反動が少ないということは……まあ、「そういうこと」なのかもしれない。

 この短時間での2度のドラゴンの力の解放。いや、その前を入れてもかなりの短感覚で解放している。

 適応したところで、何もおかしくはない。ただ……人間として生きる道が、限りなく遠くなっただけの話だ。


「キコリ、アンタ……」

「ああ。まあ、いつかそうなるとは思ってたよ。俺は、才能が無いからな」


 元から、バーサーカーとして生きるしか「生きていく方法」はなかった。

 そうして生きていたら、人間をやめるしか「生き残る方法」がなかった。

 生き方を選ぼうと思ったら、もう前に進むしかなくなっていた。

 まあ、ただそれだけの愚かしい話だ。けれど、それを悲しいとは思わない。

 生か死かの選択で生を選び続けただけの話であり、自分の選択の結果だ。

 自分の力以上に欲しいものがあるなら、何かを削るのは当然の話なのだから。


「行こう。たぶんしばらくは襲ってこないからな」 

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