どういう方法でこの海を越えていくか

 キコリの予想通りに、ストゥムカイトも蛇モンスターも襲ってはこなかった。

 正確には蛇モンスターは土から顔を出さず、ストゥムカイトは離れた高空で旋回しているだけだった。

 その理由は「無惨に死ぬことを恐れた」からなのだろう。

 片方は空を飛べることを利用した、もう片方は地中から……一方的な攻撃だけでどうにかしていたのだから、それを仲間が完全に撃退され無惨に殺されたのは、相当に危険度の高い相手だと考えても無理はない。

 そして生き物であれば、そんな無理をしてまでキコリたちを狩りの対象にしようなどとは普通は考えない。

 つまり……キコリたちをスルーする、というのが結論になるということだ。

 誰だって死にたくはない。狩りは勝てない相手に挑むことを意味はしていないのだから。


「キコリ、事情はよく分からんが……大丈夫か?」

「ああ、問題ない。逃げ道はないってだけの話だから」

「そうか。だが、いつでも言え。たいしたことは出来んが話を聞くだけならドドでも出来る」

「私も出来るぞ! 聞くのも話すのも得意だ!」


 キコリはドドとフェイムをじっと見ると、フェイムをそっと手の平で視界からどけてドドに「その時はよろしくな」と微笑む。


「何故私をどかした!?」

「フェイムはちょっと……まあ、ほら。まだ付き合い浅いしな……」

「む、確かにな」


 というか「話すの得意」がどういう意味での「得意」か不安過ぎて何か話すのが憚られるのもあるのだが、さておいて。


「そういえば、オルフェは先程大きくなってたが、どういう魔法なんだ?」

「あれは私の力であって魔法じゃないわよ」

「そうなのか⁉ む、そうなると……まさか女王候補とは!」


 キコリもオルフェもフェイムも無言。恐らくはそういうことなのだろう。

 だからこそ襲ってきた。そしてあちらもオルフェを殺していないことは気付いている可能性も充分に有る。

 他に候補がいるのだと思ってくれていればいいが……あまり希望的観測に頼らない方がいいというのも知っている。


「いや、待てよ。そういえば……殺された妖精女王の死体は、何処にいったんだ?」

「デュラハンが回収したんじゃないか?」

「……まあ、そうかもな」


 フェイムのお気楽な言葉はまさに希望的観測だが……まさかこんなことでギエンを呼んでみるわけにもいかない。


「まあ、いいか。今のところ、それが分かってどうなるわけでもない。それより問題は……」


 キコリたちは、目の前の海をじっと見つめる。

 寄せては返す波。この海岸の向こうにサレナがいるのであれば、行かなければならない。

 だからこそ、問題は。


「どういう方法でこの海を越えていくか……だな」


 恐らくは魔法で破壊されたと思われる無数のボートの残骸を見ながら、キコリはそう呟いた。

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