砂の城
「キコリ……アンタ、もしかして」
「後で説明する。オルフェ、ちょっとだけ離れててくれ」
キコリの側に寄ってくるオルフェに、キコリはそう語り掛けながら周囲の魔力を自分に吸収する。
これは今まで鎧が行っていた吸収とチャージと同様の……いや、もっとずっと強力なものだ。
キコリ自身に魔力を吸収するものだが、勿論キコリ自身の魔力容量が上がっているわけではない。
「何するつもりなの!? アンタ、それは!」
「分かってる」
そう、分かっている。
キコリ自身の魔力容量を超える魔力の大量吸収。
それで倒れたから分かっている。これは、命に関わる類のものだ。
限界を超え過ぎた身体が、中から壊れ始めている。
ドラゴンクラウンで適応できる類のものではない。
単純に、才能の問題だからだ。
だが、それでも……痛みには、適応した。
「あまり無茶は出来ない。だから、一撃できめたい」
「……死んだらぶっ殺すわよ」
「そりゃ怖いな」
頭上では、グレートワイバーンが魔力を溜めている。
全力で此処をキコリごと消し飛ばそうとしているのだろう。
だから、キコリも魔力を吸い込んでいく。
身体の痛みが、増していく。
ドラゴンクラウンが、その痛みにキコリを適応させる。
人間のままであればとうにどうにかなっている痛みに、キコリは適応して。
グレートワイバーンと向き合うように、顔をあげる。
「斧は、爪だ。兜と鎧は、鱗だ。それが、俺のドラゴンとしての証」
「訳の分からんことを……!」
「グレートワイバーン。お前もドラゴンのような生物だっていうなら、分かるだろう」
分からないはずもない。
ドラゴンが、ドラゴンたる証。
たとえワイバーンがグレートワイバーンと呼ばれ、人間からしてみれば違いが分からない程度に強力なモノを吐けたとしても、絶対にできないモノ。
ドラゴンをドラゴンたらしめる、名刺のような武器。
キコリの眼前に、雷球が生成されていく。それを見て……グレートワイバーンはこれ以上ない程に目を見開く。
有り得ない。ドラゴンを僭称する者では、それは出来ない。
だが、正しくそれは。
「ドラゴン、ブレス……」
「馬鹿な!」
オルフェの呟きに、グレートワイバーンが絶叫する。
「有り得ん有り得ん有り得ん有り得ん! 何故だ! 何故貴様が! 俺は、俺は! 此処まで強くなっても、俺は!」
「そうだな。俺には似合わないさ」
キコリの眼前の雷球の輝きが増して、スパークが激しくなっていく。
「認めん! 認められるかあああああああ!」
グレートワイバーンの最大火力の炎のブレスが、地上へ放出されて。
「それでも、戴冠した。それが答えだ」
雷球が、地より天へと昇る極太の閃光と化した。
「あ、ああ……」
自分のブレスを引き裂く閃光を見て、グレートワイバーンは自分の最期を悟る。
「俺は」
強大な電撃のドラゴンブレスが、その身を灼いて。
「貴様が羨ましい」
そう言い残して、消滅した。
帯電する空は、やがてその残滓を散らして。
キコリは血を吐いて、その場に崩れ落ちる。
悲痛なオルフェの叫び声も、何処か遠く聞こえて。
遠い、何処か遠い空の下で。
子供の作った砂の城が、波に打たれて僅かに削れた。
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