あたしの相棒なんだから
崩れ落ち倒れたキコリに、オルフェは駆け寄った。
血が。血がたくさん出ている。
吐いたものだけじゃない。身体のあちこちから、血が流れている。
当然だ。あんなもの、マトモな生き物が扱う量の魔力じゃない。
キコリがドラゴンになったとして、魔力の容量が変わっていないのなら。
それは、過ぎた力を与えられただけでしかない。
あのドラゴンブレスが最たるものだ。
あんなモノを撃てば、反動でこうなるに決まっている。
「この、馬鹿……! 死んだら殺すって言ったでしょ!」
オルフェは必死でヒールをかける。
でも、どの程度効いているのか分からない。
「ドラゴンに『なった』ですって……!? 戴冠!? 何処の馬鹿よ、アンタにそんなことしたのは!」
耐えられるはずがない。
キコリはドラゴンもどきの人間だったのだ。
そんなものに最強生物の力を与えたらどうなるか、そいつが分かっていなかったとは言わせない。
弱い身体に最強の力。使うだけで死に向かって全力疾走しているようなものだ。
だが、もう使えるようになってしまった。
ならドラゴンクラウンを利用して「適応」するしかない。
ドラゴンがそれぞれ、自分の力を振るうに足るオンリーワンであるように。
キコリもまた、そうならなければならない。
出来なければ……キコリは、死ぬ。
「くそっ……くそっ、くそう! ええ、分かるわよ! そんなこと出来るクソが何処の誰かね!」
誰かを「ドラゴン」に出来る。そんなとんでもない事を出来るとしたら……それは竜神とか呼ばれている神しか居ないだろう。
キコリが不完全なドラゴンクラウンを持っていたからこそ手を出してきたのだろうが……その結果がコレだ。
勿論、それしかキコリが生き残る方法は無かっただろう。
キコリがドラゴンになるしか手はなかった。
だから、本来であれば竜神のやったことは善なる祝福だ。
キコリは勝利し、生き残って。オルフェも生き残った。妖精の仇は討ち果たされた。
物語であれば文句なしの「めでたし」だ。
でも、それでもオルフェは思うのだ。
「英雄譚なんかクソくらえよ! こいつは、あたしの相棒なんだから!」
体内の魔力を総動員してヒールをかける。
身体さえ治れば、とりあえずは生きられる。
だから、絶対に生かしてやると魔力を籠めて。
「死んでめでたしになんか、させるもんか! さっさと目ェ覚ましなさい!」
ヒールの光が、キコリに吸い込まれて。
けれど、その光も段々と弱くなっていく。
「くうっ……! うううう……っ! 負ける、かあああ……!」
それでも、オルフェは魔力を絞り出して。
「オルフェだ!」
「ほんとだ!」
「ドラゴニアンもいるよ!」
オルフェは聞こえてくる声に振り返らないままに、叫ぶ。
「手伝いなさい! こいつを治すの! 早く!」
「はいはーい」
「恩人だもんね」
「仕方ないねー」
飛んできた妖精たちが多種多様な魔法をかけていき、オルフェはキコリが安定した呼吸を取り戻したのを確認すると、フラフラとその胸の上に落ちる。
「も、もうダメ……あたしがダメ。何人来てるの? 転移魔法使える?」
「使えるけどー」
「でもワイバーンぶっ殺しに来たのに」
「あたし達で殺したから。あとで説明するから」
オルフェの「早くしろ」という気持ちの籠った言葉に妖精たちは顔を見合わせると、他の妖精も集め何かの呪文を唱える。
その途中で、1人の妖精が巨大な宝石のようなものに気付いて拾い上げる。
その直後、妖精たちとキコリの姿は一瞬で消えて。
あとに残されたものは……何一つとして、なかった。
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